1月3日(土)放送の「NHKスペシャル」(NHK総合テレビ)から始まった全5回のシリーズのテーマは「ネクストワールド
私たちの未来」でした。
ここで言うところのネクストワールドとは30年後の2045年の未来を指しています。
1月4日(日)放送の2回目の番組のテーマは「寿命はどこまで延びるのか」でした。
そこで、先進国の長寿命化について7回にわたってご紹介します。
4回目はがんの革命的治療法、“ナノマシン”についてです。
寿命革命に立ちはだかる病の中でも最大、最強の敵はがんです。
医療テクノロジーは劣勢だったがんとの戦いを一気に巻き返しています。
アメリカ・スウェディッシュ
メディカルセンター(ワシントン州シアトル)で最先端のテクノロジーを駆使した手術を行っています。
医師は手術台から離れた場所から手術ロボット、ダヴィンチを遠隔操作します。
人間では考えられないほどの稼働率を持つ3本の手、その動きに寸分の狂いもありません。
目に見えない血管を緑色に光らせる技術も搭載し、出血を最小限に抑えることができます。
通常なら30分かかるがんの切除をダヴィンチは10分ほどで完璧に終えます。
老化を止め、病を直し、予知する、寿命の限界を打ち破ろうとする医療テクノロジー、それは今謎に包まれた人類最大の敵、がんの全貌を捉えつつあります。
ハ−バード大学のマシュー
マイヤーソン教授は、遺伝子レベルでがんの全貌を明らかにする世界的なプロジェクトのリーダーの一人です。
正常な細胞の遺伝子の突然変異で生まれるがん、マイヤーソン教授はスーパーコンピューターを使って突然変異のパターンを解析しています。
肝臓がんの場合、遺伝子変異は1万5000種類あることを突き止めました。
謎に包まれたがんの巨大な姿がくっきりと見えた時、その戦いは次のステージに移るはずです。
マイヤーソン教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「この数年でがん研究は劇的な進歩を遂げており、アメリカでは既にがんによる死亡者数は年々減少しつつあります。」
「人類はがんとの闘いに勝利し始めているのです。」
一方、がん医療を根本から覆す革命的な治療法も実現されようとしています。
開発を進めているのは東京大学工学系研究科の片岡 一則教授です。
片岡教授が開発したのは、新兵器“ナノマシン”です。
20万分の1ミリという肉眼では到底見えないサイズの物体です。
原料はポリマーと呼ばれる超微細な高分子化合物です。
このポリマーに薬をたらすと自動的にそれを包み込み、カプセル状の構造になるよう設計されています。
言わば、内部に大量の薬を搭載するミクロのロケット弾で病をピンポイントに狙い撃ちします。
既にこの臨床試験は最終段階に入っています。
ある60歳のがん患者は肝臓に転移し、余命3ヶ月と告げられていました。
ところが、ナノマシンを投与することでがんの9割が消え、1年以上生存することが出来たのです。
ナノマシンによる治療は通常の抗がん剤と違い、副作用がほとんどありません。
従来の抗がん剤は血管の外に漏れ出し、がん細胞だけでなく正常な細胞まで攻撃してしまいます。
一方、ナノマシンにはがん細胞のみを狙い撃ちするセンサーが備えられています。
ナノマシンの表面に付けられたリガンドと呼ばれる物質ががん細胞の持つたんぱく質に反応し、これがセンサーとなりがん細胞にだけ近づくことが出来るのです。
そして、ナノマシンはがん細胞の内側に侵入し、中心部にある細胞核の付近に到達すると抗がん剤を一気に放出するのです。
片岡教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「ナノマシンが順調に進化すると、再発・転移がんを防ぐことによってがんによる死亡率をどんどん下げていくことも出来るでしょう。」
「それから今治らない脳腫瘍とかすい臓がんも直せるような日が来るかもしれない。」
「要するに、がんという病気を人間の意志でコントロールしていくことが出来るようになるのではないかと思います。」
さて、このような驚異的な機能を持つナノマシンから、1966年のアメリカのSF映画、『ミクロの決死圏』が思い出されます。
この映画は、脳内出血を起こして意識不明の科学者の命を救うために、医療チームを乗せた潜航艇をミクロ化して体内に注入し、脳の内部から治療するという内容でしたが、ナノマシンはその発想を超えた究極の治療法と言えます。
ナノマシンが実用化されれば、多くのがんに伴う手術は不要にあり、副作用に苦しむこともなくなります。