先日、ある講演会に出席した際、講師の方から“レジリエンス”という言葉を初めて聞きました。
そうした中、テレビの録画番組の中から４月１７日（木）放送の「クローズアップ現代」で“レジリエンス”をテーマにしていることに気が付きました。
ということで、今回は番組を通して“レジリエンス”についてご紹介します。
今、逆境から立ち直る力、あるいは回復力と訳される“レジリエンス”（Resilience）に大きな注目が集まっています。
多くの人たちが厳しい競争にさらされている現在、過去の体験を振り返ること、あるいは食事の改善によって“レジリエンス”を高めることが出来るといいます。
就職や進学など多くの人たちが新しい環境に踏み出すなど、慣れない環境下で失敗したり、成果を上げられず挫折しそうになったり、不安ばかりが渦巻き心が折れそうになるなど、誰しも失敗や挫折を避けることが難しいとさえ言われます。
こうした中で、“レジリエンス”と呼ばれる逆境を乗り越える精神的な力、心の強さに大きな注目が集まっています。
都内の私立高校、郁文館グローバル高校では、試験や部活などでストレスを訴える生徒が増える中、去年から“レジリエンス”についての授業を取り入れてきました。
逆境を乗り越えたスポーツ選手などの生き方を学ぶことで自分の中にある“レジリエンス”を育んで欲しいと授業を行ってきました。
“レジリエンス”という概念が注目され始めたのは１９７０年代です。
きっかけの一つとなったのは、第二次世界大戦でホロコーストを経験した孤児たちの研究でした。
孤児たちのその後を調査すると、過去のトラウマや不安に苛まれ、生きる気力を持てない人たちがいる一方で、トラウマを乗り越え仕事に前向きに取り組み、幸せな家庭を築く人たちもいたのです。
同じ経験をしながら、その後の人生が大きく違うのはなぜか、研究から逆境を乗り越えた人たちには共通の傾向があることが分かってきました。
心理学者のイローナ・ボニウェル博士は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「“レジリエンス”には思考の柔軟性が必要なことが分かってきました。」
「つまり、厳しい状況でもネガティブな面だけではなく、ポジティブな面を見出す人が逆境を乗り越えることが出来るのです。」
ストレス社会と言われる現代で、どうすれば“レジリエンス”を養えるのでしょうか。
“レジリエンス”の重要な要素として以下の４つがあることが分かってきました。
�‐�況に一喜一憂しない感情をコントロールする力
�⊆�分の力を過小評価しない自尊感情
��自分が成長、前進していると感じることが出来る自己効力感
�ぜ最圓涼罎任發い弔�出来ると考える楽観性他の人と一緒に生きる力、すなわち人間関係
精神科医の大野
裕さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。
「短期目標で競争をする、そして社会の中でも孤立しやすい状況になっていて、そのために精神的に辛くなりやすくなっているんだと思うんですね。」
「それやったって大したことないやと思えば、諦めることも意味があるんですね。」
「自分にとって大切でないって判断して、そこで諦める力も大事な心の力だと思うんです。」
「一番大事なことは、自分にとってそれが大切かどうかっていうのを客観的に考える力なんだと思うんですね。」
さて、“レジリエンス”を高めるための具体的な取り組みをとして食生活と運動を取り入れている企業があります。
世界100ヵ国以上に展開している大手製薬会社、グラクソ・スミスクライン社（アメリカ・フィラデルフィア）では社員のストレスを軽減するため８年前から独自の取り組みを行ってきました。
食事のとり方を変えることで“レジリエンス”を高めようというのです。
ポイントとなるのは、脳のエネルギー源となるブドウ糖が少なくなると集中力が落ち、感情の起伏が激しくなると言われています。
そこで食事を少量ずつ短時間にすることでブドウ糖を一定のレベルに保ち、感情をコントロールする力を高め、“レジリエンス”につなげようというやり方です。
また、運動も重視します。
全力でのランニングを何度も繰り返すインターバル・トレーニングを“レジリエンス”に効果があると推奨しています。
体力の限界を乗り越える経験を通じて、自己高揚感が養われるというのです。
トレーニングに参加した社員のうちおよそ８割が職場におけるメンタルヘルスを改善し、仕事のパフォーマンスが向上したという結果が出ています。
一方、日本でも独自のやり方で社員の“レジリエンス”を高め、営業成績を上げようという取り組みが行われています。
愛知県瀬戸市の従業員９０人の中小企業、ヤマキ電器では電柱に取り付けるセラミック製品を製造していますが、売り上げがピーク時より大きく落ち込んでいました。
そこで、社員の折れやすい心を変えることは出来ないかと、民間団体の講師を招き、“レジリエンス”の研究を行いました。
研究で使われたのは逆境グラフと呼ばれるものです。
自らの人生をグラフにし、その時の状況や気持ちを書いてもらいます。
逆境グラフで過去の体験を見つめ直すことによって自らの逆境力や周囲の人たちの支えを再認識することが出来るのです。
例えば、営業担当社員にとって、度重なり契約が取れないことが続くと心が折れそうになってしまいます。
ところが、過去にこのことよりももっと過酷な状況があり、それを家族や周りの人の支えなどにより乗り越えてきたということを自覚出来れば、契約が取れるか取れないかはそんなに大したことではないんだというように視野が変わるのです。
ただし、過去の逆境を思い出すことで心が傷つく人もいます。
その場合には、折角抑えている記憶を表に出すことはあまりいいことではないので“忘れる力”も大切にする必要があると大野さんはおっしゃいます。
このような場合、自分の体験ではなく他の人の体験を元に第三者的に考えることによって客観的にいろいろな考え方のシミュレーションが出来るといいます。
番組の最後に、大野さんは“レジリエンス”を高めていくために大事なことについて以下のように総括されています。
・何が大切なのかを自分の中で客観的にきちんと把握すること
・そうすることによって、目の前の成功失敗に一喜一憂しないで済むこと
・大事なもののために諦めないで頑張り、それ以外のところは上手に諦めること
・一人で頑張る力は限られているので、愚痴を言ったりいろいろな気持ちを共有したりして他の人と一緒に出来る環境をつくること
ここまで書いてきて、“克己”、“選択と集中”、“ネバーギブアップ”、“３人寄れば文殊の知恵”という言葉が思い浮かんできました。
そして、これまで何度となくお伝えしてきましたように、アイデアは既存の要素の組み合わせであるとあらためて思います。
本質的に大切なことは、はるか昔から変わっていないのです。
そうした中、その時々の時代の抱える問題の解決策として過去のいろいろな解決策の組み合わせや新たな要素を加えた解決策、すなわちアイデアが生まれてくるのです。
“レジリエンス”もそうした中の一つだと思います。
