2014年08月16日
プロジェクト管理と日常生活 No.345 『原発事故対応にみる標準マニュアルの限界』
前回、責任者不在のままの原発再稼働でいいのかについてお伝えしました。
そうした中、7月7日(月)放送の「クローズアップ現代」(NHK総合テレビ)で「原発新基準 安全は守られるのか」をテーマに取り上げていました。
番組を通して、原発事故対応にみる標準マニュアルの限界についてお伝えします。
 
福島第一原発事故から3年、国は事故の教訓をもとに新しい規制基準を作り、原発の安全対策の審査を行ってきました。
今、再稼働の可能性が高まっているのが九州電力の川内原発です。
津波を防ぐ防護壁などの設備が急ピッチで増強されています。
九州電力では、ハード面での対策は相当改善されているといいますが、設備で防ぎきれない事態が起きた時に対処出来るのか、最後の砦となる人間の対応力は新しい基準で測りきれないという指摘があります。
 
様々な事故の原因を人間工学の視点から研究する早稲田大学理工学術院の小松原 明哲教授は、福島第一原発事故の事故調査報告書で実際にあった事例を重視しています。
原子炉への注水が途絶えることを懸念して所長は消防車を使うことを考えました。
ところが、マニュアルにない手順だったため誰も対応出来ず、炉心の冷却を遅らせる原因となったのです。
小松原教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「マニュアルをただ単に順守すればいいというだけでなく、それが実現しない時にどうするのか、マニュアルを基準にしながらも自分たちで考えて行動することが必要になります。」
 
更に、マニュアルにない事態が起きた時、大きな判断を迫られるのは現場のトップ、所長です。
断片的な情報しかない中、福島第一原発で事故対応にあたった吉田 昌郎所長(当時)は、政府の事故調査に対して、考えてなかった事態に遭遇し、重要な情報を総合的に判断する余裕がなくなっていたと証言しています。
 
所長の判断力をどう高めようとしているのか、九州電力は取材に対して電力会社でつくる団体、原子力安全推進協会の研修に参加していると回答しています。
ところが、どうすれば人間の対応力を高めることが出来るのかその方策はまだ確立されていません。
 プロジェクト管理と日常生活 No.308 『無印良品にみる標準マニュアルの威力!』でもお伝えしたように、プロジェクト管理のみならず、組織が効率的に日々の作業を進めるうえで標準マニュアルには大変な威力があります。
そもそも、標準マニュアルがなければ、大きな組織でスムーズに事を運ぶことは出来ません。
ところが、原発事故対応にも見られるようにこの標準マニュアルにも限界があります。
というのは、扱う対象がとても複雑な場合、標準マニュアルにあらゆることを想定した事項を全て記述することはほとんど不可能だからです。
しかも、原発施設の所長を中心に、人間の対応力を高めることが出来るのかその方策がまだ確立されていない状況での原発再稼働は本来あり得ないのです。
 
一つ間違えば首都圏でも人が住めなくなる状況に陥ったという福島第一原発事故が起きていながら、今のような対応状況下で原発の再稼働を進めるというのは無謀という他ありません。

 
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