2014年06月24日
アイデアよもやま話 No.2798 人を幸せにする味覚センサー!
世界初の人工の舌、すなわち味覚センサーについては、以前アイデアよもやま話 No.1264 味覚センサーの仕組み!などでお伝えしました。
そうした中、5月18日(日)放送の「夢の扉」(TBSテレビ)でも取り上げていました。
そこで、今回は”人を幸せにする”という観点からこの味覚センサーについてあらためてご紹介します。
 
行列が出来るラーメン、人気シェフのフレンチに昔懐かしいおふくろの味、これらの味をそっくり再現する夢の技術があります。
これまで同じ味を再現するためには、レシピを参考にしたり、そこに含まれる成分の分析などが行われてきました。
ところが、微妙なさじ加減があり、全く同じ味を作るのは極めて難しいです。
そこに人工の舌を使った味覚センサーという全く新しいアプローチで挑んでいるのが九州大学大学院の都甲潔 主幹教授(61歳)です。
味覚センサーによって、どんな味でも忠実に再現することが出来るようになったのです。
 
味覚センサーの活用は現在いろいろな現場に広がっています。
マルモトの伊予工場(愛媛県伊予市)で味覚センサーを活用して開発したのは、塩分を減らしても塩味が効いている麺つゆです。
かつお節を従来より2倍多く入れて出汁を効かせ、その分塩分を2割減らすことに成功しました。
にもかかわらず、他社の麺つゆと比べてみても舌で感じる塩味は最も濃く出ていることが分かりました。
出汁が効いてくると塩分が低くても感じる塩味は強く出るということが味覚センサーで分かったのです。
 
一方、大海酒販では、味覚センサーで開発した焼酎でフランスに打って出ようとしています。
それはシャンパンの味に近づけたシャンパン風味の焼酎です。
炭酸ガスが入っていなので酸味は異なりますが、それ以外はよく似ています。
2012年のパリコレではこの味が評判だったといいます。
また、コーヒー会社ではある産地のコーヒー豆の価格が高騰した場合、味覚センサーにより別の産地の豆を使いながら同じ味を作り出すことが出来るのです。
そして、製薬会社では苦み成分があっても苦みを感じさせない薬を開発するのに味覚センサーを活用しています。
 
なお、都甲先生は「ハイブリッド・レシピ」という本の中で身近な食材からいろいろな味を作る方法を伝えています。
都甲先生は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「みんなが美味しいものを食べるとニコッと笑う、みんなを幸せに出来る、僕は人を不幸にする可能性がある研究は絶対しない、意地でもしない。」
 
都甲先生の夢は、人を笑顔にする”美味しい”を何十年、何百年先へと残すことです。
 
今、都甲先生が新たな研究として取り組んでいるのは、人間が五感で感じている”美味しさ”をセンサー機器で数値化することです。
人間は味覚の他に視覚、嗅覚、触覚、聴覚の五感全てを使って”美味しさ”を感じています。
都甲先生はこの5つの感覚を数値化する技術を組み合わせ、新たな”美味しさ”の物差しを作ろうとしています。
ちなみに、都甲先生は今年1月28日にオープンした九州大学の味覚・嗅覚センサー開発センターの初代センター長に就任されました。
 
確かに、人が”美味しさ”を感じるのは味覚だけではありません。
どんなに味がよくても色がどぎつかったり匂いが強烈であれば、人はそれを”美味しい”とは感じないからです。
ですから、五感全てを使っての”美味しさ”を追及するということは極めて妥当だと思います。
 
世の中には、病気のため塩分控えめの食事を取らなければならず、薄味を我慢しながら食べなければならない人、あるいは好き嫌いの多い子どもの栄養バランスに悩んでいるお母さんなど、食に関していろいろな悩みを持っている人が多いと思います。
また、美味しいと評判の食べ物でも高価であれば、そう簡単に口にすることはできません。
そうした中、五感センサーを活用した安価な食品が登場してくれば、多くの人たちが”美味しい”を五感で感じることが出来るようになるのです。
また、そうしたデータを残しておけば、後世の人たちも忠実に過去の時代の食べ物を再現することが出来ます。
更には、時代ごとの”美味しさ”のトレンドも把握することが出来ます。
そういう意味で、都甲先生の進められている研究は、「食の21世紀革命」と言えるのではないでしょうか。

 
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