2013年10月15日
アイデアよもやま話 No.2582 トリクルダウン理論が格差社会の元凶!?
8月18日(日)放送の「NHKスペシャル」(NHK総合テレビ)のテーマは「新富裕層 vs 国家 〜富をめぐる攻防〜」でした。
番組の中で格差社会の元凶と言われているトリクルダウン理論について取り上げていたのでご紹介します。
 
富裕層が急増するきっかけになったのは、1980年代のアメリカの政策です。
当時、自動車などの製造業が日本に追い上げられ、アメリカ経済は深刻な不況に陥っていました。
経済の再生を掲げた当時のレーガン大統領は金融の規制緩和に加え、大型減税を実施し、投資を促しました。
景気の回復とともに市場は活気づき金融ビジネスで成功を収める人が増えていきました。
2001年に就任したブッシュ大統領は更に減税を推し進めました。
ちなみに、所得税の最高税率の推移ですが、レーガン大統領就任時には70%だったのがブッシュ大統領就任以降には30%まで下がりました。
その結果、富裕層の数は240万人から720万人へと3倍に増えました。
 
この背景にあったのがトリクルダウン理論なのです。
トリクルダウン理論とは、富裕層がより豊かになれば、その富が国民にも滴り落ちるというものです。
ところが、実際にはそうはなりませんでした。
この間に成長したITや金融ビジネスはかつての製造業のように雇用の拡大や幅広い層の賃金の上昇をもたらしませんでした。
むしろビジネスに有利な場所を求めて国を離れていく新富裕層の誕生につながったのです。
 
今、アメリカではより低い税率の国や地域に移住する新富裕層が現れています。
ある富裕層が今年7月に移住を決めたプエルトリコは株の売却益が非課税、法人税は4%といいます。
プエルトリコでは移住してくる富裕層向けに高級住宅街も開発されました。
こうした新富裕層の移住によってプエルトリコ政府は今後6年で税収が2000億円増えると見込んでいます。
一方、このプエルトリコに移住した新富裕層の男性は、自分たちの手元に残るお金は2倍になると見込んでいます。
国が生み出した新富裕層が今またその富を拡大させていくのです。
ちなみに、プエルトリコに移住した新富裕層はこの1年間で30人に昇ります。
 
今、そのアメリカで庶民の怒りが国家に向き始めています。
政府の巨額の財政赤字の影響で保育園などへの補助金削減が打ち出されています。
リーマンショクの損失の穴埋めに巨額の税金が使われており、そのあおりで今公共サービスが削減されようとしているのです。 
 
富裕層の数が190万人とアメリカに次いで多い日本、ここでも海外への移住が加速しています。
ちなみに、富裕層とは投資可能資産が100万ドル以上の資産家を指しています。
こうした富裕層の海外移住によって税収がどれだけ減ってしまうのか国は把握出来ていません。
船井総合研究所の試算によれば、シンガポールなど4ヵ国への移住だけでも年間390億円が失われているといいます。
ところが、実際はこの数字をはるかに上回っているとみられています。
ちなみに、純資産100万ドル以上の富裕層は、アメリカが1位で約1100万人、日本は2位で約360万人といいます。
 
先進国から流出する富、OECD(経済協力開発機構)の租税委員会では各国の税制の違いを利用し、税負担を軽くしようとする企業の問題が協議されています。
更に、今後は国家が協力して海外に流出する富裕層の富にどう課税していくか検討が始まります。
こうした状況下で、日米ではそれぞれ富裕層への増税の動きが起きています。
 
このように見てくると、トリクルダウン理論が格差社会の元凶のように思えてきます。
確かにトリクルダウン理論は経済全体のパイを拡大するためには有効かもしれませんが、問題は国民全体がその恩恵にあずかるとは限らないことです。
結果的に、金融経済優先で実体経済が潤わなければ、国民全体の生活レベルは上がらず、一部の富裕層に富が集中してしまうのです。
こうして格差社会が誕生してしまったのです。
 
でも私は必ずしも格差社会は否定しません。
問題は、貧困層の増大です。
貧困層が限りなく少なくなり、中間層と富裕層との二極分化であれば問題ないと思うのです。
それでも、富裕層がいくら富を蓄積してもそれを消費に回さなければその富は”死に金”で全く社会に貢献出来ません。
ですから、世界中の富裕層の人たちにはお金を貯め込むだけでなく、同じ投資をするにしても有効に社会還元するように富を使って欲しいと思います。
同様に、政府にはただ単に経済成長を目指すのではなく、貧困層を無くし、中間層を増やすような政策に取り組んで欲しいと思います。

 
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