今回は番組を通して五感が伝わる遠隔操作についてご紹介します。
既に遠隔操作による手術については世界的にかなり普及が進んでいます。
ところが、医師たちは更なる進化を期待しているといいます。
それはコントローラーを握る医師の手に触感が伝わるようになることです。
手術する箇所が硬いのか柔らかいのか、あるいは切ってはいけないのか、というのは手の触った感覚で分かりやすくなるからです。
触覚が分かるとより高度でより安全で緻密な手術が出来るようになるのです。
今、触感のフィードバックが現実になろうとしています。
慶應義塾大学で私たちの未来を劇的に変えるかもしれないロボットの研究が行われています。
世界が注目するこのプロジェクトを指揮するのは舘 �惰断ざ擬�です。
開発しているのは世界でもあまり例を見ない分身型ロボットです。
システムを起動すると分身型ロボットは操縦者と同じような動きをします。
指先の細かい動きなど身体の微妙な角度も正確に再現します。
これは１４台のセンサーが操縦者の身体の動きを捉え、そのデータをインターネットでロボットに送信し、それを瞬時に再現しているのです。
逆にロボットが捉えた映像は操縦者が着けているゴーグルに映し出されます。
なので自分の手を動かしているのに見えているのはロボットの手で、自分がロボットになったかのように感じるのです。
このロボットが世界から注目されている理由は他にもあります。
ロボットの指先に未来の医療を変えるかも知れない世界初の技術が詰まっているのです。
硬さや熱さ、更にはなめらかさなどの質感など細やかな触感を伝える新感覚ロボットです。
このようなロボットシステムを舘教授は「テレイグジスタンス」と名付けました。
「テレ」は遠くを意味し、「イグジスタンス」は存在、つまり遠くに存在する技術という意味です。
「テレイグジスタンス」は遠隔操作を超えた遠隔体験なのだと舘教授はいいます。
ラジコンカーを見ながら客観的に操作するのではなく、ラジコンカーに乗り込んだ臨場感を得ながら操作する、それが遠隔体験なのです。
医師の手は患者の病状を把握する高性能のセンサーです。
もし、空間を超えて触感が伝わるならば遠く離れた患者の触診が出来ます。
医師たちはそこに期待しているのです。
ではこの繊細な感覚をどのように操縦者の指に伝えているのでしょうか。
触った感覚を伝達するには２つのプロセスがあります。
１つはロボットの指先の感覚を数値化することです。
これは温度や硬さを計測するセンサーによってクリア出来ます。
もう１つはどうやってその触感を人に伝えるかですが、これが非常に難しいといいます。
そのハードルを超えるためのヒントが色の再現方法にありました。
色の場合は赤、青、緑という３原色の組み合わせてほとんどの色を再現出来ます。
テレビが様々な色を映し出すのもこの方法によります。
これと同じことが出来ないかと舘教授は考えたのです。
そして、触覚も温度覚、振動覚、圧覚を組み合わせることで元の触感をほとんど再現出来ることを舘教授は突きとめました。
これを触原色原理と名付け、それぞれの再現に挑みました。
まず、温度覚については加熱と冷却を瞬時に行える半導体を用いることで指先に再現させました。
次に、振動覚については小型の振動素子を用いました。
そして、圧覚については指先の変形を伴う触覚なので、２つのモーターとベルトを使って押される感覚と引っ張られる感覚を再現する装置です。
２つのモーターが内側に回転してベルトを巻き上げると指を押される感覚が再現されます。
また、２つのモーターが同じ方向に回転すると今度はベルトが横に動いて引っ張られる間隔が再現されるのです。
こうして、温度覚、振動覚、圧覚の再現に成功し、これらが複合的に作動し、様々な触感が得られるのです。
この技術が実用化されると医療は大きく変わる可能性があります。
離島や医療施設の少ない、あるいは優れた医師や医療機器の不十分な地方でも最先端の技術を持った医師による治療のみならず手術を受けることが出来るようになるのです。
あるいは、救急車にこうしたロボットを搭載しておくことにより応急処置も出来るようになるといいます。
「テレイグジスタンス」が変えるのは医療分野に限らず、ビジネスやショッピング、宇宙開発などで無限の可能性を秘めています。
舘教授は番組の最後に次のようにおっしゃっています。
「最初はテレフォンということで音や会話が伝わりましたが、それがテレビ電話になって映像を見ながら会話が出来る。」
「それがテレイグジスタンスになると触覚も含めて全身でコミュニケーションが出来る、それによってショッピングや困っている人を助けたり、世の中が大きく変わっていくと思われます。」
インターネットが世界を変えたように、テレイグジスタンスも多くの不可能を可能にしていくと期待出来ます。
例えば、ネットショッピングでも実際に商品に触れ、感触を確かめてから購入出来ます。
外出時に自宅に残してきたペットの世話をすることも出来るようになります。
災害活動などにも大いに役立つはずです。
更には、地球外惑星へこうした遠隔操作ロボットを送り込めば、だれでも簡単に宇宙旅行を体験出来るようになるのです。
