2013年05月27日
アイデアよもやま話 No.2461 医薬品のネット販売にみる規制改革の必要性!
安倍政権のアベノミクスの要は成長戦略と言われています。
中でも規制緩和はその大きな柱と言えます。
そうした中、5月1日(水)放送のワールドビジネスサテライト (テレビ東京)で医薬品のネット販売の可否について取り上げていたのでご紹介します。

2009年5月、医薬品のネット販売事業を展開するケンコーコム株式会社の後藤 玄利社長は医薬品のネット販売規制に関する訴訟を起こしました。
医師の処方箋が無くても買える医薬品は副作用などのリスクが高い順に第1類(423億円)、第2類(6124億円)、第3類(2687億円)と分類されています。 (カッコ内の数字は市場規模)
このうち第1類、第2類のネット販売が厚生労働省令により禁止されたのです。
後藤社長は国を相手にネット販売を続ける権利を主張して提訴、訴訟は最高裁までもつれ込みました。
そして、今年1月ケンコーコム側の勝訴という最高裁による判決が下されました。
ところが、厚生労働省では全くルールがない中での医薬品のネット販売の拡大に大変懸念を示しています。
また、関係団体からも消費者の安全性の観点からネット販売の拡大について否定的な見解が出されています。
この関係団体の反応の背景には既得権を守りたいという意図があるのは容易に想像出来ます。

さて、ここで問題とすべきは厚生労働省令による禁止の根拠がいまだによく分からないということです。
ですから、厚生労働省による規制は「新薬事法の委任の範囲を逸脱し違法」とした最高裁による判決は極めて妥当と言えます。
その根拠は、法律では「対面販売」を明確に義務付けておらず、従ってネット販売を禁止するということは職業活動の自由を制約しているということです。

ちなみに、このような既存市場への新しい参入について、過去に次のようなイギリスの産業革命時代の例があるといいます。
赤旗法という法律がありました。
新しく自動車が市場に投入されると、馬車組合などが非常に困り、自動車を規制しようという動きが出てきました。
そして、自動車が通る時にその前を赤旗を持った人が歩いているとそれを追い越してはいけないという規制、それが赤旗法でした。
このような結果、せっかくイギリスで自動車が出回るようになったのに普及が進まず、フランスやドイツに後れを取ったといいます。
ですから、後藤社長は今回の厚生労働省令は21世紀の赤旗法ではないかと考えています。

医薬品の対面販売には様々なルールがあります。
例えば、副作用の強い第1類の薬は空箱で、直接購入者の手の届かない場所に保管されています。
また、第1類の薬には薬剤師が書面で適正な使用方法などを説明することが義務付けられていますが、購入者が不要と言えば薬事法では説明は受けなくて良いとなっているのです。

一方、ケンコーコムでは薬を買おうとすると質問の画面が現れ、チェックを入れると赤文字でアドバイスが表示されます。
また、7人の薬剤師が在籍し、毎日5人ほどが電話などで相談に応じる体制だといいます。

しかも、ケンコーコムによるネット販売は、厚生労働省により許可された薬局が対面販売だけでなくネット販売もするというものなのです。
また、薬の注文を受けると発送前に必ず薬剤師が販売して問題ないかどうかをチェックする仕組みになっています。
そして、過去にネット販売による副作用も報告されていないといいます。

現在、厚生労働省では医薬品のネット販売について新たなルールを作るための検討会が開かれており、後藤社長も参加されています。
その検討会の場で後藤社長はネット販売について、安全性に問題があるのではれば指摘して下さい、そして更にいいものがあれば一緒に作っていきましょうというかたちでたたき台を示し続けているといいます。
ところが、いまだに議論を進めずにネット販売を許すべきかどうかという入り口の所で議論をしている状況だと後藤社長は番組の中でおっしゃっています。
また、今回の検討会は最高裁の判決を前提とせず、しかも憲法学者を呼んで今回の判決について解説してもらう、あるいは憲法学者にも検討会に参加してもらうよう働きかけても全く受け入れられないといいます。
悪質な業者が入り込む可能性を心配するなどの理由で、薬のネット販売は規制すべきだという声が根強いのです。

さて、ここで注目すべきは薬の購入者の安全性と利便性の確保です。
この観点からみると、ケンコーコムによるネット販売は購入者の安全性を確保しつつ利便性を高めているという対面販売にはないメリットです。
というのは、私自身の経験からしても風邪などで医師による診察を受けた後薬局で薬を購入する際、薬の取り扱いの簡単な説明を受けることがありますが、それらの内容は全て処方箋に書かれています。
また、これから高齢化社会が進み薬に頼る人たちが多くなってくると、足腰の悪い人も増えてきます。
そうした人たちにとって、わざわざ薬を買うために電車やバスに乗って最寄りの病院や薬局に行くのはとても大変です。
ですから、ネットショップでも薬を買えるようになれば利便性が高まるのです。

というころで、今回ご紹介した薬のネット販売に限らず、様々な商品のネット販売の規制については、購入者の安全性、利便性、および商品の低価格化という3つの観点から監督官庁には既得権益団体の圧力に屈せずに検討していただきたいと思うのです。

 
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