2012年07月26日
アイデアよもやま話 No.2200 iPS細胞の実用化前夜!
7月3日(月)放送のクローズアップ現代 (NHK)では今まで何度かお伝えしてきたiPS細胞の実用化前夜の状況について取り上げていたのでご紹介します。

京都大学 iPS細胞研究所 所長の山中伸弥教授が生み出したiPS細胞ですが、その実用化の障害となっていたのはがんを引き起こすことでした。
ところが、山中教授のもと、研究者たちが結集して”がん化”の恐れを克服し、医療への応用が急速に進み始めています。
更に、iPS細胞は筋肉が骨に変わってしまうなど、難病の治療薬の開発にも使われようとしています。

iPS細胞が出来たので皮膚を取るだけで眼球の外で網膜細胞が作れるようになりました。
そこで、理化学研究所 網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダーの高橋政代医師は傷んだ部位の代わりにiPS細胞で出来たものを移植することで網膜の機能を回復させようとしていますが、”がん化”の危険性があるため実際に医療に使うことは出来ませんでした。
ところが、iPS細胞が出来てから5年経った昨年、遂に京都大学iPS細胞研究所でがん化を防ぐ新たな技術を完成させたのです。

当初のiPS細胞の作り方は、
皮膚の細胞のDNAに山中教授が見つけ出した4つの遺伝子を直接組み込んでいました。
この遺伝子が働き、皮膚の細胞がiPS細胞に生まれ変わります。
この方法では、組み込んだ遺伝子が異常を引き起こし、がんが出来る恐れがありました。
新たな方法では、遺伝子を細胞の中に入れますが、DNAには組み込みません。
DNAを変えないため、がん化のリスクをかなり低く抑えることが出来るのです。

こうして、安全性の高いiPS細胞が開発されたことで、世界初となる人への治療に踏み出しました。
高橋さんはこの治療の許可を国から得るため、近く病院に治療計画を申請します。
認められれば、患者5人を選んで来年にも移植手術を行い、治療の安全性と効果を確認したいとしています。

iPS細胞で注目されるのは再生医療だけではありません。
iPS細胞を使って病気のメカニズムを解明し、その病気に効く薬の開発です。
200万人に1人という難病、FOP(進行性骨化性線維異形成症)とは、遺伝子の異常で筋肉が次第に骨に変わっていく進行性の病気です。
治療薬を開発するには、筋肉から病気の元になる細胞を取り出し、研究することが必要です。
ところが、細胞を取り出すために針を刺すと、筋肉が刺激されて病気が進行してしまいます。
このため、病気の元になる細胞は手に入らず、治療薬の開発は進みませんでした。

京都大学再生医科学研究所の戸口田淳也教授はiPS細胞が作られたことで、FOPの治療薬の開発に取り組みました。
戸口田教授は筋肉を刺激しないように患者の皮膚から細胞を取り出し、iPS細胞を作りました。
このiPS細胞には病気の遺伝子が入っているため、FOPの原因となる骨を作る細胞へと変わります。
患者の体内で骨が出来る現象が体の外で再現出来るようになったのです。
健康な人の場合、骨の細胞はわずかですが、FOPの患者ではほとんどが骨に変化していることが分かります。
戸口田教授は、この変化を抑える物質を見つければ治療薬の候補になると考えています。
実用化には時間がかかりますが、実験室の中では変化を抑える物質を見つけています。

iPS細胞は日本人の二人に一人がかかるがんの治療にも応用されようとしています。
岡山大学で抗がん剤の研究を続けてきた妹尾昌治教授は、がんの原因とされるがん幹細胞をiPS細胞から作り出したことで注目されています。
がん幹細胞は次々とがん細胞を生み出します。
がん細胞とは違って抗がん剤はほとんど効かず再発や転移の原因とされています。

30年にわたって血液のがん、白血病の患者の治療にあたってきた埼玉県がんセンターの金子安比古医師はがん幹細胞に悩まされ続けてきました。
白血病では抗がん剤を使うと多くの場合がん細胞が消え、正常な白血球だけになります。
ところが、数年後その半数の患者で再びがん細胞が増え続けます。
がん幹細胞が残っているために再発するのです。

がん幹細胞は人の体から取り出すのは容易ではなく、研究もなかなか進みませんでした。
ところが、妹尾教授はiPS細胞にがん細胞を培養した溶液を加えることでがん幹細胞を作ることに成功したのです。
実験室の中で作り出せるようになったことで、がん幹細胞の正体を探る研究も進むと期待されています。
がん幹細胞を直接攻撃する物質が見つかれば、がんの再発を防ぐ画期的な抗がん剤が出来る可能性もあります。

このように、iPS細胞というと再生医療として注目されていますが、iPS細胞を道具として使ってiPS細胞で病気を再現して病気の原因を解明する、そして薬を探す、という使い方も大いに期待されているのです。
更に、一つの新薬を作るには、5万から10万くらいの候補を探す必要があり、これが大変な作業なのですが、iPS細胞を使うことによって薬を絞り込む、というステップがどんどん進んでいる、と山中教授はおっしゃっています。
ですから、iPS細胞はいろいろな意味で医療革命をもたらし、しかも現在はその革命前夜という時期を迎えているのです。
恐らく、今世紀中には難病も含めて多くの病気の治療方法がiPS細胞の活用により画期的に進化し、人類の寿命は驚くほど伸びているはずです。

アイデアには無限の可能性があるのです。

 
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