2012年05月31日
アイデアよもやま話 No.2152 世界で一番痛くない注射針!
ふだん私たちがお世話になっている注射、きっとだれもが注射は痛いもの、という常識に囚われ注射されるたびに嫌な思いをしていると思います。
そうしたところ、5月6日(日)放送の夢の扉〜NEXT DOOR〜(TBSテレビ)で「”痛くない”究極の注射針」をテーマにしていたのでご紹介します。

注射は痛いのに、どうして蚊に刺されても痛くないのか、この素朴な疑問に大まじめに取り組んでいるのは、ロボットアームなどを研究・開発する
関西大学システム理工学部の青柳誠司教授(49歳)です。
青柳さんは”痛くない”究極の注射針を開発したのです。
髪の毛よりも細い、0.0015ミリという注射針です。

その裏には”蚊”の知恵がありました。
青柳さんは蚊が血を吸っても痛くない謎を科学的に解析し、その驚くべきメカニズムを明らかにする決定的瞬間を捉えました。
1秒間に1000枚撮影出来る超高速カメラで蚊が刺す瞬間を捉えることに成功しました。
なんと蚊には1本ではなく3本もの針状の機関が存在しているのです。
まず、片側の針が刺す、次にその針を引き抜くと同時に血を吸う真ん中の針を挿入、そして抜かれるや今度は3本目の針が入ります。
つまり、3本の針が連動しながら最小限の穴を掘り進めていたのです。
実は、この動き、刺した時の痛みを軽減させるといいます。
更なる秘密は、針の形状です。
まるでノコギリのようにギザギザしていて、一見すると痛そうです。
ところが、ノコギリ状の方が皮膚とこすれる面積が少ないため痛みが軽減されるのです。

青柳さんは、このような蚊の持つ機能の性能の良さに対して、蚊は”究極のマイクロマシン”と表現しています。
青柳さんは、鉄腕アトムにあこがれ、東京大学工学部に入学、エンジニアとしてひたすらロボットの研究に邁進しました。
ところが、ロボットについて知れば知るほど打ちのめされました。
そこで、とても人間の能力には近づけない、人間はあまりにも複雑なのでもう少し簡単なところで昆虫とか蚊とかを真似るのが手っ取り早いと考えました。
そして、研究室にはロボット工学関連に混じって生物学関連の専門書が並ぶようになりました。
14年前、蚊の針がノコギリ状であることを知った青柳さんは、針をノコギリ状にすれば痛みの少ない注射針が出来るはずだと考えました。
こうして、憑かれたように何種類ものノコギリ状の針をデザインしました。
ところが、大学の研究室だけでは技術的にその製造は不可能でした。
その時、”痛くない注射針”という青柳さんの夢に魅せられた、ある小さな医療機器メーカーが協力したいと名乗りを上げました。
こうして、青柳さんはライトニックスの福田光男社長の協力の下、研究を進めることになりました。
血糖測定用に開発したピンニックスライトは今年3月の発売以来、20の医療現場に2万個納入されました。

それでもまだ青柳さんはもっと蚊の痛さに近づけようと更なる高みを目指しています。
蚊が血を吸うメカニズムを人工的に再現したい、青柳さんが目指しているのは刺されても痛くない究極の注射針なのです。
幾何学模様がプリントされている、フォトマスクという特殊ガラスは拡大すると本物の蚊と同じ大きさ、形状の針の型が並んでいます。
薄いシリコンの板にこのフォトマスクを重ねて紫外線を照射すると、フォトマスクの針の型がシリコンの板に転写されます。
そして、針をプラズマを使って削り出していきます。
削り出されたパーツの厚みはわずか0.05ミリです。
最後にパーツから切り離せば完成です。
その細さは蚊と同じ0.015ミリです。
市販化されている最も細い注射針と比べても圧倒的な細さです。
しかも、蚊を模したギザギザも形作られています。

更に、青柳さんはとんでもないものに挑戦しました。
3本の針が連動して蚊と同じ動きをするプログラムを作り上げ、蚊と同じスケールの針で同じ動きを再現することに成功したのです。
青柳さんはこうして夢の注射針に一歩近づきました。
青柳さんの研究はまだ続いています。
今度は、極細の針に穴を開けて注射器としての機能を持たせようというのです。

それにしても、蚊の針が3本もあるなんてだれが想像していたでしょうか。
実際に蚊に刺されるのと同じくらいの痛さの注射針が実用化されたら、多くのの患者さんに喜ばれるはずです。
特に、毎日のように注射が必要な患者さんにとっては大変な負担軽減になります。

今まで何度か自然の知恵、すなわちその仕組みを私たちの生活に生かす研究であるネイチャー・テクノロジー(Nature Technology)についてご紹介してきました。
今回ご紹介した痛くない注射針も蚊の知恵を模したもの、すなわちネイチャー・テクノロジーです。
最近、ネイチャー・テクノロジーの応用にビジネス界でも注目が集まっていますが、自然界の知恵は私たちの想像以上に優れているように思います。
ですから、その優れたところをどんどん取り入れていけば、私たちの日々の暮らしの利便性や省エネ効果を高められるはずなのです。

 
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