2011年11月23日
アイデアよもやま話 No.1989 実用化に迫る熱電発電!
熱電発電については、アイデアよもやま話 No.1328 温度差発電 − エネルギー問題解決の切り札!?で以前にもご紹介したことがあります。
10月15日(土)放送のサイエンスZERO(NHKEテレ東京)で熱電発電の実用化について取り上げていたのであらためてご紹介します。

私たちの身の回りは膨大なエネルギーの塊、熱で溢れています。
でも、そのほとんどは使われることなく捨てられています。
この熱を直接電気に変える夢の技術、熱電発電が今注目されています。

熱のエネルギーを電気エネルギーに変換するのですが、タービンなどを使わずに直接エネルギーの変換が出来るのです。
原理は意外と簡単で古くから知られているのですが、いろいろとハードルがあって今までは実用化には至りませんでした。
ところが、今や次にご紹介するように実用化が着々と進んでいます。

ある大手建設機械メーカー(石川県小松市)では、部品を加工する炉から毎日大量の熱が発生しています。
こうした24時間出続け捨てられている炎のエネルギーを熱電発電に利用することで工場内の蛍光灯の電力を作っています。

一方、焼却炉メーカー(石川県白山市)では、従来よりも効率を飛躍的に高めた熱電発電装置を開発し、実用化に成功しました。
焼却炉から捨てられる熱を少しでも利用したいと7年前から開発に取り組んできましたが、実用化に至るまでにはそう簡単ではありませんでした。
最初に取り組んだのは排気ガスからの発電、その温度は800℃を超えていました。
ところが、想定をはるかに下回る発電しか出来ませんでした。
排気ガスの場合、温度は高いものの熱の密度が低く、しかも熱を伝えにくい性質があるため装置の温度を十分に上げることが出来ませんでした。
ところが、当初は熱電発電には使えないと考えていた、100℃と低い温度の蒸気に熱電発電装置を入れたところ、排気ガスに比べて2倍近くも発電したのです。

800℃を超える空気よりも100℃の蒸気の方が多くの電力が得られる、そこには凝縮熱という不思議な現象がありました。
蒸気の場合、温度は低くても熱の密度はとても高い状態です。
この蒸気が壁に付くと、一瞬で冷やされて水滴になります。
その時、蒸気が持っていた熱が壁側に放出されます。
これが凝縮熱です。
ちなみに、真夏の打ち水などで空気が冷たくなる気化熱はこの凝縮熱の反対の現象です。
こうして、瞬時に熱が大量に伝わるため装置の片側を十分に熱くすることが出来たのです。
この原理を使うことによって、高効率の熱電発電装置を開発出来ました。
排気ガスでは最大で数ワットしか発電出来なかったのが、蒸気ではその100倍以上、およそ1kwの発電が可能になりました。

更にこの方法を応用すれば、蒸気の発生するところであればどこでも熱電発電が出来る可能性が出てきました。
また、自動車の排気ガスを利用した熱電発電への取り組みも海外の自動車メーカーが燃費向上10%を目指して進めています。

そして、今全く新しい熱電発電が生まれようとしています。
2010年10月、世界を驚かす論文が東北大学の齋藤英治教授によりNature Materialsで発表されました。
これまでと全く違う原理で熱電発電が出来るというのです。
それがスピンゼーベック効果です。
この研究で使われたのが磁性ガーネットという素材です。
これまで熱電発電は金属のような電気を通す素材でしか出来ませんでした。
ところが、この磁性ガーネットは電気を通さない絶縁体です。
そのため、電池と豆電球をつなげた回路の途中に磁性ガーネットを入れると電気は流れません。
ところが。磁性ガーネットを暖めて温度差を付ける実験をしたところ、20℃の温度差でわずかですが電圧が生じました。
なんと電気の通らない絶縁体で発電したのです。
通常の熱電素子装置だと電子の運動で電力を生じるのですが、これは電子の自転のようなスピンによって電気を生じる、という新しい仕組みなのです。
絶縁体で発電出来るという事実は、まさに今までの常識を翻すものです。

このように、熱電発電は熱のあるところどこでも発電出来るので、自然エネルギー発電同様に分散エネルギーシステムを可能にするものです。

発電にもいろいろな方法があるものです。
でも、その中から発電効率や価格によってより良いと思われる発電方式が生き残っていくのです。
ですから、”選択と集中”の観点から優れた可能性のある技術に対しては国家レベルで研究開発から購入時に至るまで補助金などあらゆる支援が必要だと思います。
多くの展示会で様々な技術に接してみてこのように強く感じるのです。

 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています