2010年10月08日
アイデアよもやま話 No.1637 夢を実現した「空飛ぶ人間」たち!
10月2日(土)放送のワンダー×ワンダー(NHKテレビ)のタイトルは「空飛ぶ人間」でした。
空を飛ぶためにいろいろな人たちがアイデアをかたちにしていたのでご紹介します。

北欧のノルウエーの高さ1000mを超える断崖から飛び降りてムササビのような姿で宙を舞う鳥人間がいます。
彼らが着用しているのは”ウイニングスーツ”と呼ばれる、空を飛ぶために開発されたスーツです。
そして、実際に飛んでいるのはスカイダイビングを何百回も経験している空のエキスパートたちです。
飛び降りた直後は腕を縮め、出来るだけ空気抵抗を出来るだけ少なくして加速します。
十分なスピードがついたところで翼を広げ、全身で風を捉えて滑空に移ります。
時速200km近くの速さで1分ほど飛び続けることが出来ます。
身体には秒速50mを超える大きな風圧、それに負け少しでもバランスを崩すとパラシュートを開けなくなる危険もあります。
でも、上級者になると開いた腕の角度や傾きを微妙に変えるだけで左右への旋回も思うままです。
更に、飛行機から飛び降りれば滞空時間は格段に長くなり、20km近く飛んだ記録まで出ています。

この”ウイニングスーツ”誕生の裏には、
空を飛ぶ夢を追い続けた伝説のスカイダイバーが自ら命を賭けた挑戦があります。
それはパトリック ド ガヤルドンというフランス人です。
彼の名前を一躍有名にしたのはボードに乗ってスカイダイビングを行うスカイサーフィンです。
彼の夢はダイビングをフライングに変えることでした。

空を飛ぶ夢に挑んだ人は過去にも大勢いました。
軽さと強さを両立させようと様々なアイデアが生まれました。
ところが、1枚の布を使った構造だったため飛行中の猛烈な風に煽られると十分な揚力を生み出すことが出来ませんでした。
そんな中、パトリックさんはあるものを見て閃きました。
それは、パラグライダーです。
空気を取り込むと安定した揚力が生まれるその仕組みを応用しようと考えたのです。
パラシュート・メーカーの協力でスーツを試作し、自ら実験台になって風洞施設に入り飛行性能を調べました。
更に、裁縫の特技を生かして自ら改良に努めました。
そして、2年後の1994年、”ウイニングスーツ”を着て初飛行に成功しました。

ところが、パトリックさんは成功したことを喜びましたが満足はしていませんでした。
常にその先へ先へと進むことを考えていました。
初飛行から3年、1997年に新たな挑戦をしました。
何と、飛び立った飛行機の中に再び戻ろう、というものでこれも成功させました。

その後も”ウイニングスーツ”で空を飛び続けたパトリックさんは1998年飛行中のパラシュートの操作ミスにより帰らぬ人となったのです。

番組では、この他にも以前
アイデアよもやま話 No.890 世界最小のヘリコプター!でご紹介した一人乗りヘリコプターも取り上げていました。
この乗り物は海外でも注目の的です。
2008年にはイタリア、レオナルド・ダ・ビンチの生まれ故郷でデモ・フライトを行い、20mの高さまで浮上し集まった人たちの喝さいを浴びました。
この乗り物を発明したのは、柳澤源内さん(77歳)です。
工場を経営し、機械の設計を手掛けてきたエンジニアです。
柳沢さんも子供の頃から空を飛びたい、という夢を持ち続けており、工場の経営も軌道に乗った50代半ばから仕事の傍らで開発に打ち込み始めました。
そして、足かけ13年の歳月をかけて完成させたのが”GEN H−4”と名付けた一人乗りヘリコプターです。

沢山の人たちに大空を飛んで欲しいと量産化に挑戦、これまでに8台が売れました。
ちなみに、値段は1台750万円です。
最高時速は40kmで連続30分の飛行が可能です。
そして、”GEN H−4”に乗るのに免許は必要ありませんが講習を受ける必要があります。
また、日本では航空法により飛行許可が必要です。

更に、番組ではもう一つ”ジェットウイング”と呼ばれる、世界で一つしかない乗り物が取り上げられていました。
”ジェットウイング”は、ジェットエンジン搭載の翼で上昇も回転も自由自在に空を飛びまわれる乗り物です。
軽くて丈夫なカーボン製で、翼の下には4機のジェットエンジンが付いています。
小さくても飛行機のエンジンと同じ構造で、燃料を満タンにすると10分以上飛ぶことが出来ます。
内部にはエンジンを制御する電気システムがあり、15年がかりで開発してきたのです。
実際に飛行するには、上空まで飛行機で行き、そこから飛び始め、スピードは時速300kmまで出ます。

”ジェットマン”と呼ばれる、
スイス人のイヴ ロッシーさん(50歳)により発明されました。
イヴさんは元空軍パイロットで現在は旅客機のパイロットです。

イヴさんは番組の中で次のようにおっしゃっていました。
「コクピットは閉ざされた空間で決められた手順を守るだけで飛んでいる感じがしません。」
「だから、空を自分の体で飛ぶこと、空を飛ぶことの原点に戻りたい、と思ったのです。」

翼一つで飛行機のように空を飛びたい、という熱い想いからイヴさんの挑戦が始まりました。
パイロットの仕事を続けながら収入のほとんど全てをつぎ込み開発に没頭しました。
しかし、当初は失敗の連続で墜落してウイングを壊してしまったことは20回以上でした。
そのたびに、パラシュートを使って難を逃れてきました。

そして、2008年、幅30kmのドーバー海峡の横断に挑戦しました。
もし、途中で燃料が切れれば海に落下してしまいますが、飛行時間ギリギリの9分7秒で無事に渡り切りました。

2010年夏、イヴさんは更なる挑戦に挑みました。
スイスで開催された航空ショーで2機の飛行機とフォーメーションを組んで飛ぶ、というものでした。
この挑戦に向けて、スイスの大手航空機設計会社が新型エンジンにその技術力を貸してくれました。
従来のものより大幅に軽量化され、操作性も格段に向上しました。
その結果、航空ショーは大成功に終わりました。

イヴさんはこの結果について、番組の中で次のようにおっしゃっていました。
「今回の挑戦はあくまで通過点です。」
「挑戦したいことは山ほどあります。」
「未だ空を飛ぶ、ということの入口に立ったばかりですから。」

イヴさんがこれからどのような挑戦をされるのかとても楽しみです。
現在は、飛行機に乗ってある程度の高度から飛び出していますが、いずれ飛行場の滑走路から離陸するようなことに挑戦するのでは、と想像されます。 

さて、3人の「空飛ぶ人間」をご紹介して来ましたが、SFの世界が現実になったような気がします。
また、それぞれに別々な方法によるところが面白いと思います。
”ウイニングスーツ”は一切人工的な動力源に頼らず、風の力と人間によるスーツの操作だけで空を飛びます。
そして、”GEN H−4”は既存のヘリコプターを一人乗り用にコンパクトにしたものです。
また、”ジェットウイング”は、ジェット機を極限まで小型化して翼だけにして人間と一体化したものです。

アイデアは既存の要素の組み合わせです。
ですから、「空飛ぶ人間」になる方法はこれからもいろいろなかたちで実現されていくと期待出来ます。
それにしても、空を飛ぶのは常に死と隣り合わせのリスクがありますが、それを上回る人間の好奇心、冒険心には単純にロマンを感じます。
このロマンこそが、人類が常に新しい時代を切り開いてきた源泉だと思うのです。

 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています