2016年12月03日
プロジェクト管理と日常生活 No.465 『COP22に見る国際的な地球温暖化対策の現状!』

モロッコで開かれていた国連の気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)が11月19日に閉幕しました。

2020年からの協定実施に向け、詳細なルール作りを2018年までに完了することなどで合意しました。

今回は、プロジェクト管理の観点から、COP22に見る国際的な地球温暖化対策の現状についてお伝えします。

まず、11月10日(木)付け読売新聞の朝刊記事の内容の一部をご紹介します。

 

COP22では、途上国側から、風水害や熱波など地球温暖化の影響に対応する「適応策」を優先して議論するよう要望がありました。

適応策とは、地球温暖化の進行をある程度見越したうえで、温暖化の影響で起きる気象災害の被害を軽減させる対策を指します。

温暖化対策の中では、CO2などの温室効果ガス排出削減と同じく重要とされています。

協定では、全ての国に排出削減の目標を達成するよう努力する義務が課せられており、適応策の強化も求められています。

 

排出量の少ない途上国の場合、削減による温暖化対策への貢献には限界があります。

一方、インフラが脆弱で気象災害の影響を受けやすいため、削減よりも適応策に力を入れたい国が多いのです。

 

以上、記事の内容の一部をご紹介してきました。

 

さて、プロジェクト管理の観点から見ると、世界各国による温室効果ガス排出削減対策は地球温暖化のリスク対応策に相当し、適応策はコンティンジェンシープランに相当します。

本来であれば、リスク対応策の実施により地球温暖化による被害の発生を防止するのが常道なのです。

ところが、太平洋上の途上国を中心に既に海面上昇などの被害が発生しています。

また、世界各国で最近異常気象が毎年のように発生し、その被害は今後増々増えていくと見込まれます。

また、一部の研究機関では既にこれまでのリスク対応策では地球温暖化の進行を食い止めることは出来ないので、温暖化による被害を緩和させるための適応策の検討をすべきだという声が上がっています。

 

こうした状況は何を意味しているのでしょうか。

リスク対応策でリスクの顕在化を食い止められず、コンティンジェンシープランを同時に実施しなければならない状況に追い込まれたということなのです。

すなわち、地球温暖化はそれほど進行しており、リスクはどんどん大きくなり、一部ではリスクが顕在化している状況を迎えているのです。

ですから、地球温暖化対策は予断を許さない状況を迎えているといえます。


 
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2016年12月02日
アイデアよもやま話 No.3563 エマニュエル・トッドが混迷の世界を読み解く その5 日本は課題先進国としての自覚を持つべき!

今回のアメリカ大統領選前の11月6日(日)に放送された「エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く」(NHKBS1)はとても興味深い内容でしたので5回にわたってご紹介します。

 

なお、番組は以下のように5つのチャプターから構成されていました。

チャプター1 世界で生き残るため日本的価値観から脱却せよ

チャプター2 トランプ現象は何を意味するのか?

チャプター3 世界のグローバル化は終焉する EUの動向に注目せよ

チャプター4 中国は何処へ向かうのか?

チャプター5 国内に向き合うことで未来を探れ

 

5回目は、チャプター5のテーマ「国内に向き合うことで未来を探れ」の内容をご紹介します。

 

これまで自由競争で豊かさを求めてひた走ってきた世界、アメリカ、ヨーロッパ、そして中国でグローバリゼーションが軋みをあげている今、この世界で日本の進むべき道とはどこでしょうか。

 

現代フランスを代表する知性の一人、人類学者・人口学者のエマニュエル・トッドさんは、都内の駒沢オリンピック公園の何気ない光景を目にしてあらためて感じることがあります。

それは日本に感じるもどかしさだといいます。

「ここに来て一つ気付いたことがあります。」

「今は平日の午後3時、パリでこの時間にこのような(多くの子ども連れ親子を見かける)光景はあり得ません。」

「なぜなら子どもは皆この時間は保育園にいて両親はともに仕事をしています。」

「でも仮に例えば急に保育園を沢山作ってもそれだけで問題は解決しないでしょう。」

「なぜなら日本には子どもを預けるのは良くないことだという暗黙の文化があるからです。」

「文化や価値観を変えなければならないのです。」

「日本はテクノロジーを使い、完璧なロボット社会を作ろうとしているかもしれません。」

「しかし、それも解決にはならないでしょう。」

「よく仕事の方が子育てより大変で重要だという人がいます。」

「でもそれは間違っています。」

「私は仕事も子育ても両方やりました。」

「子育ての方がエネルギーを使うし、とても重要なことなんです。」

「本を書く方がよっぽど簡単だよ。」

「私が初めて日本に来たのは20年前、その頃から人口減少は大きな問題になっていました。」

「私は初め日本人ならなんとか対応出来ると楽観視していました。」

「でもこの20年間ただ問題だ問題だと騒ぐだけで、実際には何も変化がないように見える。」

「このまま放っておくと人口減少は経済よりも極めて深刻な問題になるでしょう。」

 

世界の環境が大きく変わる中で従来型の思考から抜けきれない日本、今私たちの目の前にあるのは市場経済第一主義、過度の競争がもたらす深刻な格差、貧困の問題です。

世界を覆う大きな変化の潮流の中、日本は新しい価値観を育てる時が来ているとトッドさんは次のようにおっしゃっています。

「グローバリズムの理想は世界中の人々が皆平等になることでした。」

「だが実際にグローバル化がもたらしたのは社会の分断と格差の拡大でした。」

「昔マルクスは「万国の労働者よ 団結せよ」と言いましたが、団結したのはエリートでした。」

「だからそれに対抗して、もっと国という枠組みを意識する必要があります。」

「エリートと大衆の断絶を無くし、同じ国の仲間だという意識を持って一つにまとまるべきです。」

「「国という単位でまとまろう」と主張する私が日本に対して言えるのはここまでです。」

「あとは日本が決めること。」

「これ以上言ってしまったらグローバル化が好きな愚かなフランス人ということになってしまいますからね。」

 

2週間に及んだ今回の来日、混迷の世界を読み解くためにトッドさんが投げかけた数々の言葉を私たちはどう受け止めていくのでしょうか。

以下は世界を見つめ続けるトッドさんが幾度となく繰り返した言葉です。

「今、世界は非常に重要な時期にさしかかっています。」

「グローバル化の夢が終わろうとしているのです。」

「その発想を生み出した社会の中からこそ終わろうとしているのです。」

「もはや経済のことばかり強迫観念のように考える時は過ぎ去ろうとしています。」

「国家も経済だけに囚われず、もっと重要なことに目を向ける時代を迎えることでしょう。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

トッドさんのご指摘の通り、このまま放っておくと人口減少は経済よりも極めて深刻な問題になると思います。

その最先端を走っているのが日本なのです。

日本は資源小国でもあるわけですから、日本は“課題先進国”と言えます。

また、トッドさんは1回目で日本が世界で生き残るためには明治維新に匹敵するような価値観の革命が必要であると指摘されていました。

そこで思い起こされるのは、No.2514 ちょっと一休み その394 『日本は”課題解決先進国”を目指すべき』でお伝えした“課題解決先進国”という日本の目指すべき方向性です。

そのためには、トッドさんのご指摘の通り、日本の家族システムの見直しなど、これからのあるべき社会に対応した価値観の革命が必要だと思います。

 

世界に先駆けて、これから多くの国が直面するはずの課題を解決するうえでの価値観の創造、およびその実践は何にも増して国際貢献につながると確信します。


 
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2016年12月01日
アイデアよもやま話 No.3562 エマニュエル・トッドが混迷の世界を読み解く その4 グローバル化により大きな困難に直面している中国!

今回のアメリカ大統領選前の11月6日(日)に放送された「エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く」(NHKBS1)はとても興味深い内容でしたので5回にわたってご紹介します。

 

なお、番組は以下のように5つのチャプターから構成されていました。

チャプター1 世界で生き残るため日本的価値観から脱却せよ

チャプター2 トランプ現象は何を意味するのか?

チャプター3 世界のグローバル化は終焉する EUの動向に注目せよ

チャプター4 中国は何処へ向かうのか?

チャプター5 国内に向き合うことで未来を探れ

 

4回目は、チャプター4のテーマ「中国は何処へ向かうのか?」の内容についてです。

 

現代フランスを代表する知性の一人、人類学者・人口学者のエマニュエル・トッドさんは、

EUの崩壊を予告しなければならないほどのグローバリズムの危機、その深刻な現実に直面する国がもう一つあると指摘しています。

それは中国です。

今やGDP世界第2位の経済大国にまで急成長した中国は、アジア諸国を中心に存在感を増しています。

近隣諸国のインフラ開発を目指して中国が中心になって立ち上げたAIIB(アジアインフラ投資銀行)には50を超える国と地域が参加しています。

 

一方、軍事面では南沙諸島など近隣国への覇権主義的な動きを見せ、日本でも安全保障上のリスクとして語られることも少なくありません。

トッドさんはこの中国の行く末を次のように予言しております。

「中国は内部から崩壊する恐れがあります。」

「中国がグローバル化の中で重要な要素だというのは確かですが、自らその役回りを選んだわけではありません。」

「中国はロシアよりうまく共産主義と距離を取り、市場経済への移行を選択して他国からの投資を呼び込むことに成功したとも言われています。」

「しかし本当にそうでしょうか。」

「それは中国が自らの力で成し遂げたことではないのです。」

「アメリカ、ヨーロッパ、そして日本がそうさせたのです。」

「その理由は中国人の賃金の安さ、例えば中国人の賃金はアメリカ人の20分の1です。」

「それを使えば簡単に利益を上げることが出来ます。」

「ですが、実は今その構造が中国に悪い影響を与えているのです。」

 

安い労働力で世界の工場となった中国ですが、そのことが逆に中国の首を絞めているとトッドさんは指摘しています。

グローバル世界の中では競争原理が働くため、中国の安い賃金は世界各国の労働者の賃金を押し下げる力となります。

各国の賃金が下がれば、消費が停滞し、それまで買っていた中国製品の需要も減少します。

つまり安い労働力で作り続けることは自国のマーケットを小さくすることになっているというのです。

「中国はあまりに巨大なため、その賃金の安さは世界中の労働者の賃金上昇を停滞させてしまうのです。」

「その結果、世界各国で消費が抑えられ、物が売れません。」

「すると、その影響はブーメランのように自国に戻り、中国の労働者の仕事がなくなってしまう。」

「中国がグローバル経済の中で果たしている役割の大きさを考えると、この悪循環は深刻です。」

 

トッドさんが中国の未来を厳しく見る更なる理由があります。

グローバル化によるマネーや人の移動の自由が中国の未来にボディブローのように効いてくるというのです。

「国内の経済を見ても、中国は普通の国とは違います。」

「GDPにおける設備投資の割合が共産主義の時代と変わらず、40〜50%と極端に高い。」

「国内の消費が低く、経済は成熟していません。」

「にもかかわらず、資本を国外に出そうとしています。」

「これは異常なことです。」

 

こうした状況は過剰な外需への依存を示しています。

まだ経済大国としての実態が伴っていないというのです。

 

そしてもう一つ、人の移動が何をもたらすのか、そのことについてトッドさんは次のようにおっしゃっています。

「私の専門である人口学的な立場からは、中国に対して悲観的な未来しか見えません。」

「中国は今人口流出の問題に直面しています。」

「中国にも移民は来ていますが、それよりも多くの人が国を出ていっています。」

「ヨーロッパやアメリカが移民を引き付けるのとは真逆です。」

「入ってくる人、出ていく人のバランスを見ると、年間150万人が中国から出ていっています。」

 

年間150万人という人口流出問題に直面している中国、数の多さは勿論ですが、中国の高等教育の現状を考えると、それ以上にこの人口流出の問題は深刻だとトッドさんは次のようにおっしゃっています。

「欧米では大学進学率は40〜50%、一方中国は6%と極端に低い。」

「わずかヨーロッパの5分の1、国としては圧倒的な差があります。」

「移民として流出しているのは教育レベルの低い貧困層だと思われがちですが、それは間違っています。」

「実際の移民はきちんとした教育を受けた人たちです。」

「例えば19世紀にヨーロッパや日本で教育レベルが上がると、田舎に住んでいた人たちは都会に出ていきました。」

「今はそれと同じことが世界規模で起きているのです。」

「それこそがグローバル化です。」

「未成熟な国から教育を受けた人がいなくなってしまうことは非常に大きな問題です。」

「これは一般にあまり知られていないことですが、グローバル化によって安定した国と逆に不安定になった国があります。」

「ヨーロッパと中国は特に不安定になり、先行きの見えない状況に陥りました。」

「ヨーロッパと中国が似ているというのは不思議に思えるかもしれませんが、人口学的に見ればそれは間違いなく事実です。」

 

今グローバリゼーションによって大きな困難に直面している中国、その現実の中で中国が取っている覇権主義的な動き、その2つはどのような関係があるのでしょうか。

トッドさんは表面上の動きを見て右往左往することは避けるべきだと次のようにおっしゃっています。

「中国がこれ以上拡大を続けるとは私は思いません。」

「中国の軍事力は実はそれほど大きくない。」

「今、中国は非常に覇権主義的な姿勢を見せていますが、実際その軍事力は国内をコントロールするのが精いっぱいで、国境を超えて影響力を及ぼすことは出来ないでしょう。」

「中国の覇権主義が実際に外へ向かうリスクは少ないでしょう。」

「それよりも危険なのは、中国が内部から崩壊に向かうことです。」

「世界にとって危険なことです。」

「これだけの人口を抱えた国が崩壊するとすれば、世界に多大な影響を与えます。」

「今の中国に対していら立つこともあるかもしれません。」

「反日感情を利用して国内を安定させようとする姿勢を不愉快に思う人もいるでしょう。」

「しかし、これまで話してきたように中国は非常に不安定な国なのです。」

「そのことをきちんと理解しなければなりません。」

「そして中国の手助けをするべきです。」

「感情的になってはいけません。」

「好意的に中国と向き合う努力が必要です。」

「日本はそこにナショナリズムを持ち込んではいけないのです。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

まず、以下にその内容を私なりに箇条書きにまとめてみました。

(中国は内部から崩壊するリスクが高い)

・その理由は、中国人の賃金の安さにある

・グローバル世界の中では競争原理が働くため、中国の安い賃金は世界各国の労働者の賃金を押し下げる力となる

・各国の賃金が下がれば、消費が停滞し、中国製品の需要も減少し、自国のマーケットを小さくすることになる

・多くの人口を抱えた中国の崩壊は世界に多大な影響を与えることになる

・日本はナショナリズムを持ち込まず、中国の安定化のために中国の手助けをするべきである

 

(中国は経済大国としての実態が伴っていない)

・GDPにおける設備投資の割合が極端に高く、外需への依存度が高い

・一方、国内の消費が低い

 

(中国は年間150万人という人口流出問題に直面している)

・グローバル化は高学歴の人材の海外への流出をもたらしている

・グローバル化によりヨーロッパと同様に中国も不安定になり、先行きの見えない状況に陥っている

 

(中国の覇権主義が外へ向かうリスクは少ない)

・中国の軍事力は国内をコントロールするのが精いっぱいで、国境を超えて影響力を及ぼすことは出来ない

 

このように中国が直面している問題をまとめてみると、更にその先には以下のような状況が見えてきます。

・グローバル化の進展は今後とも国際資本を中国よりも賃金の安い途上国へとシフトさせていく

・従って、各国の賃金の上昇は期待出来ず、消費が停滞し、引き続き途上国の製品の需要も減少し、自国のマーケットを小さくすることになる

・この賃金の負のスパイラルは国際資本が世界中の途上国に行きわたるまで続くことになる

・世界中の高学歴の人材のより高収入で自分の能力を生かせる国への流出が止まらない

・世界的に格差社会が広がる

 

このように見てくると、中国が今直面している困難は中国の後に続く新興国や途上国の抱える困難、およびの先進国の更なる格差拡大を暗示していると言えるのではないでしょうか。

 

こうした時の突破口として思い起こされるのは、これまで何度かお伝えしてきた以下の2つの言葉です。

アイデアは存在し、見つけるものである

“知性”こそが永遠平和のカギ(カントの言葉)


 
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2016年11月30日
アイデアよもやま話 No.3561 エマニュエル・トッドが混迷の世界を読み解く その3 EUの動向に見る世界のグローバル化の終焉!

今回のアメリカ大統領選前の11月6日(日)に放送された「エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く」(NHKBS1)はとても興味深い内容でしたので5回にわたってご紹介します。

 

なお、番組は以下のように5つのチャプターから構成されていました。

チャプター1 世界で生き残るため日本的価値観から脱却せよ

チャプター2 トランプ現象は何を意味するのか?

チャプター3 世界のグローバル化は終焉する EUの動向に注目せよ

チャプター4 中国は何処へ向かうのか?

チャプター5 国内に向き合うことで未来を探れ

 

3回目は、チャプター3のテーマ「世界のグローバル化は終焉する EUの動向に注目せよ」の内容についてです。

 

現代フランスを代表する知性の一人、人類学者・人口学者のエマニュエル・トッドさんの名を世に知らしめた予言、それは今年6月に国民投票で決まったイギリスのEU離脱でした。

トッドさんは2年前に著書でそのことを明言していました。

そんなトッドさんが更にヨーロッパの未来について、「とても悲劇的なことですが、このままではEUは崩壊の道をたどるでしょう」と予言をしています。

当初、行き過ぎたグローバル化からヨーロッパの国々を守る役割を期待されたEU、しかしその実態は全く違うものになってしまっているとトッドさんはおっしゃっています。

「EUは当初の目的とは反対に、グローバル化からヨーロッパを守るどころか世界で最も自由貿易を推し進めているのです。」

「ヨーロッパの国々にはそれぞれ様々な特徴があります。」

「ドイツはその中でも最も高い生産能力を誇る国です。」

「そしてEUが成立したことで最も強力な国となりました。」

「今やドイツがEUをコントロールしていると言ってもいいでしょう。」

「EUの理念は全ての国が平等であるということでした。」

「しかし実際にはその逆で国と国の格差が広がっていった。」

「アメリカの一人勝ちに対抗するために作ったEUがドイツの一人勝ちを招いたという皮肉です。」

「EUは今やブラックホールのような存在で、多くの国に極めて悪い影響を与えているのです。」

 

アメリカ型グローバリズムからヨーロッパの国々を守る防波堤だったはずのEUがドイツの影響下に置かれてしまっているという現実、そのことが平等という理念とは裏腹にヨーロッパ各国に大きな格差を生んでいたのです。

そしてEU離脱を選択したイギリスは最もそのしわ寄せを受けているとトッドさんは次のように指摘しています。

「EUがイギリスに与えた悪影響は大きなものです。」

「ロンドンはグローバル化の拠点となり、経済は金融に特化し、北部の都市との間に大きな格差が生まれました。」

「イギリスの社会は分断されてしまったのです。」

 

グローバル化が一気に進展した20年間でどう格差が拡大したのか、トッドさんは所得が多い上位1%の人の全体の所得に占める割合の変化を見ると明確だと言います。

 

  (トップ1%の所得集中度の変化)

     1980 2000

アメリカ  8.2 16.9 +8.7 (%)

イギリス  5.9 12.7 +6.8

日本    7.2  8.2 +1.0

ドイツ  10.8 11.1 +0.3

 

日本やドイツが20年間でほとんど変化がないのに対して、アメリカでは8.7%、イギリスでは6.8%の拡大、グローバル化のトップを走った国ほど格差は拡大していることが分かります。

トッドさんは、こうした状況について次のようにおっしゃっています。

「イギリス以外にも多くの国がEUを出たいと思っています。」

「例えばイタリアはドイツに対していらだっている、ギリシャもそうです。」

「今やEUはまるで監獄のようです。」

「そしてドイツが看守のような役割。」

「とても悲劇的なことですが、このままではEUは崩壊するでしょう。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

そもそも無条件にグローバル化を推し進めれば、弱肉強食の世界で技術力が高く、生産性の高い国の製品やサービスが世界中を席巻してしまいます。

同様に、今回ご紹介したデータからも裏付けられるように無条件のグローバル化の推進は国内の格差を拡大してしまうのです。

こうしたことから、トッドさんは今のままの枠組みの中でのグローバル化は経済強国の一人勝ち、および世界各国における国内の格差拡大を招く、従ってEUも崩壊すると予言されているわけです。

 

そこで思い起こされるのはスポーツの世界です。

柔道やボクシングでは、重量によりいくつかの階級に分けて重量によるハンディを考慮しています。

経済の世界においても、国ごとの経済力を考慮して何らかのハンディを付けたかたちでのグローバル化が図られるべきだと思うのです。

同様に、考慮すべきは国内における格差拡大の歯止め策です。

 

ということで、今こそ経済学者や政治学者など世界中の英知を結集して“どの国も、そしてどの国の国民も納得出来るグローバル化”のあるべき姿を描くことが求められていると思うのです。


 
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2016年11月29日
アイデアよもやま話 No.3560 エマニュエル・トッドが混迷の世界を読み解く その2トランプ現象は何を意味するのか!

今回のアメリカ大統領選前の11月6日(日)に放送された「エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く」(NHKBS1)はとても興味深い内容でしたので5回にわたってご紹介します。

 

なお、番組は以下のように5つのチャプターから構成されていました。

チャプター1 世界で生き残るため日本的価値観から脱却せよ

チャプター2 トランプ現象は何を意味するのか?

チャプター3 世界のグローバル化は終焉する EUの動向に注目せよ

チャプター4 中国は何処へ向かうのか?

チャプター5 国内に向き合うことで未来を探れ

 

2回目は、チャプター2のテーマ「トランプ現象は何を意味するのか?」の内容についてです。

 

現代フランスを代表する知性の一人、人類学者・人口学者のエマニュエル・トッドさんは、

アメリカ全土に広がった“トランプ旋風”の本質を読み解き、大統領選を前に番組の中で次のようにおっしゃっています。

「トランプがどんなに馬鹿げたことをしても、勝つ可能性は決して無くならない。」

「アメリカを揺るがす“トランプ現象”、それは白人中間層による革命なんです。」

「マスコミはトランプ支持者は教育を受けていない層だと言います。」

「トランプを応援するなんて社会の最下層に違いないと。」

「でもアンケート調査によると、それは全く間違っています。」

「トランプを支持する人々は大学に入っても卒業していない中間層と呼ばれる人々です。」

「彼らの収入を見てみると最近は若干上がっているが、長いスパンで見ると穏やかに下がりながら停滞していると言えます。」

 

実はアメリカでは大学に入っても卒業する人はおよそ4割、中退する6割の層が中間層と呼ばれる人々なのです。

調査結果では、その中間層が最もトランプ候補を支持していることが分かります。

トッドさんが指摘するのはこの中間層の収入の伸び悩みです。

1998年以降、緩やかに下降しながらほぼ停滞しています。

競争社会の中で負け組となって取り残されていく中間層、医療保険制度の未整備などで公的なサポートも受けられない中、不満が滞留しているのだといいます。

 

またトッドさんは、こうした状況について番組の中で次のようにおっしゃっています。

「人類学的にこんなデータがあります。」

「アメリカの白人男性の死亡率が高くなっています。」

「そして死亡原因は自殺やドラッグ、更にアルコール中毒や肥満など、これを見ると不安定な経済システムのせいで社会全体が不安を抱えていることが分かります。」

 

アメリカの人種別死亡率の推移を見てみると、白人男性の死亡率だけが緩やかではあるものの極端に上がっているのが分かります。

一般的には死亡率は医学の進歩などで下がっていきます。

ですから、この事実は異常な事態なのです。

 

またトッドさんは、教育のレベルと死亡率の関連について番組の中で次のようにおっしゃっています。

「教育のレベルによっても死亡率に差があります。」

「教育レベルの最も上の層、大学や大学院を卒業した人たち、いわゆるエリートの死亡率は下がっています。」

「寿命は若干長くなっているんです。」

「一方、トランプの支持層でもある中間層、大学を中退した人々は死亡率が一向に下らず停滞しています。」

「実はこれは大きな問題なのです。」

「常に前進し続けることがアメリカの理想、「停滞」はアメリカンドリームの終焉を意味するのです。」

 

なぜ中間層が停滞し、不満を溜める社会になったのか、トッドさんはその背景には皮肉にも社会の教育レベルが上がったことがあるといい、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「昔のようにほとんどの人が高卒で読み書きが出来る程度だった時代はみんな一緒で差が無いため、社会全体は民主的なものになります。」

「でも現代のアメリカは平等だといいながら、実際に力を持っているのは30%の大卒の人々です。」

「彼らはエリートだという自意識があり、他の階層への関心を失いがちなんです。」

 

社会の教育レベルが上がり、大卒以上のエリートが全体の30%を超えると社会は質的に変化していくとドットさんは言います。

エリートが社会を動かす力を持ち、自分たちがより豊かになる仕組みを作れるようになる、その結果として残りの70%は生きづらい生活を余儀なくされてしまうのです。

社会を良くするための教育が社会の分断を生むというジレンマです。

トッドさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「こうした教育システムは不平等感を社会全体に広めていきます。」

「その状態がずっと続いていくと、エリート層の側も意識が変わっていくのです。」

「30%という数の増えたマスエリートは、傲慢になり「みんなのため」と言いながら全体のためにはならないグローバル化を推し進めます。」

「民主主義の危機なのです。」

「トランプの支持者は決して教育を受けていないわけではありません。」

「愚かなわけでもなく、理性的に考えない人たちでもありません。」

「むしろトランプ本人より理性的な人々です。」

「彼ら中間層は停滞するアメリカの社会に翻弄され、社会に対し怒っています。」

「トランプに魅力を感じているわけではありません。」

「トランプは彼らにとってただの道具でしかない。」

「トランプを道具として使うことによって怒りをエリートにぶつけているのです。」

 

激しく泥仕合を演じてきた今回の大統領選こそ内部に大きな分裂の苦しみを抱えているアメリカの姿そのものだとトッドさんは見ています。

そして、トッドさんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「今回のクリントンとトランプの闘いは外へ目を向ける「覇権主義」と内側に目を向ける「一国主義」との戦いです。」

「クリントンは今までのアメリカと変わらず覇権主義的な考えで、自由貿易を認め、グローバル化を進める側の立場です。」

「更に軍事面でも非常に覇権主義的です。」

「これまで通り世界各国へ軍を派遣しようとしています。」

「「世界平和のため」という名目でね。」

「そしてこれまでと同じように失敗を繰り返すのでしょう。」

「逆にトランプは一国に閉じこもる方向です。」

「アメリカが世界で果たしてきた役割から降りようとしています。」

「ある意味エゴイストとも思える考え方です。」

「今回の選挙は派手でばかばかしいやり合いばかりに目が行きがちですが、その裏にあるアメリカ社会の構造の変化を冷静に見つめなければならないのです。」

 

トランプ候補が勝つ可能性は無くならないというトッドさんの言葉、それは“トランプ現象”がアメリカの抱える構造的な問題そのものであり、たやすく解決出来ないということを意味しているのです。

格差と貧困、豊かになるはずのグローバル化をけん引してきたアメリカの深い病理、今この病はどこまで広がっているのでしょうか。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

ここであらためて思うことがあります。

それはこれまで世界経済をけん引してきた、突出した“経済大国”アメリカにおける“アメリカンドリーム”の終焉、そして“世界の警察官”としての役割の終焉です。

こうした背景があって、トランプ候補が勝つ可能性は無くならないというトッドさんの言葉は現実のものとなったと思うのです。

そして、トッドさんのおっしゃるアメリカにおける「覇権主義」と「一国主義」という二極化した社会構造において、トランプ次期政権はこれまでの「覇権主義」指向から「一国主義」指向へと大きく舵を切ろうとしているのです、

しかし、この大きな溝を埋めることは双方の利害が対立してそう簡単ではなさそうです。

 

あらためてこの問題を整理してみると、以下のように大きく3つに集約されるように思います。

・経済のグローバル化による格差社会の到来

・テクノロジーの進歩による雇用機会の縮小

・上記2つの問題を背景とした、白人中間層を中心とした低所得者層による不満の増大がもたらす社会不安

 

こうした問題がある一方で、自由貿易などによる経済のグローバル化は世界各国の人々の豊かな暮らしの向上に必要不可欠です。

 

では、こうした問題の解決策の要件はというと、問題の裏返しで以下のようになると思います。

・経済のグローバル化の拡大と格差社会の解消というジレンマの解決

・低所得者層や失業者への文化的な暮らしに必要な最低限の生活保障


 
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2016年11月28日
アイデアよもやま話 No.3559 エマニュエル・トッドが混迷の世界を読み解く その1 日本的価値観からの脱却の必要性!

今回のアメリカ大統領選前の11月6日(日)に放送された「エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く」(NHKBS1)はとても興味深い内容でしたので5回にわたってご紹介します。

 

なお、番組は以下のように5つのチャプターから構成されていました。

チャプター1 世界で生き残るため日本的価値観から脱却せよ

チャプター2 トランプ現象は何を意味するのか?

チャプター3 世界のグローバル化は終焉する EUの動向に注目せよ

チャプター4 中国は何処へ向かうのか?

チャプター5 国内に向き合うことで未来を探れ

 

今秋、世界の未来を予言すると言われる人物が来日しました。

現代フランスを代表する知性の一人、人類学者・人口学者のエマニュエル・トッドさんです。

トッドさんが初めて来日したのは20年前、以来毎年のように来日しているという大変な親日家でもあります。

今回は都内で開催された「朝日地球会議2016」で講演を行いました。

トッドさんは、この講演の中で次のようにおっしゃっています。

「今、世界は重要な時期にさしかかっています。」

「グローバリズムの夢が終わろうとしているのです。」

 

今、日本でもトッドさんの発言に対する関心が高まっています。

国際情勢が大きく変わる中、トッドさんの言葉に未来を考えるヒントを求める人が増えているのです。

トッドさんは、これまで幾度も世界の未来を予言し、的中させてきました。

ソビエト連邦の崩壊については、社会が大切にすべき幼児の死亡率が悪化したことから予測しました。

また、2000年代の初めには貿易収支、貯蓄率の変化からアメリカの没落を予測しました。

そして、トッドさんはイギリスのEU離脱も2年前に予言していました。

人類学者として、また人口学者として世界中の統計を扱ってきたトッドさんですが、数々の予言の根拠となるのは詳細でユニークなデータの読み込みです。

 

2016年の秋、トッドさんが激動の世界について番組の中で語ります。

1回目は、チャプター1のテーマ「世界で生き残るため日本的価値観から脱却せよ」の内容についてご紹介します。

 

来日してのある日、トッドさんは東京の新宿の繁華街にほど近い、廃校となった旧 淀橋第三小学校を訪れました。

トッドさんは、次のようにおっしゃっています。

「人類学的には一つの事例から全ては語れませんが、やはりこれは日本の人口減少の象徴的な光景ですね。」

「フランスでも生徒が減り、廃校になることはあります。」

「でもそれは地方でのこと、パリではあり得ない。」

「逆にパリでは子どもが多過ぎるくらいです。」

「東京で「廃校」というのは深刻な事態だと思います。」

 

2015年の日本の出生率は1.46、国や民間が様々な取り組みをしているにも係わらず、生まれる子どもの数は減り続けています。

出生率の減少に歯止めがかからない現状こそが問題なのだといいます。

トッドさんは、次のようにおっしゃっています。

「そこには非常に重要な問題があるのです。」

「家族システムによって生まれた価値観が原因なのです。」

 

家族システムとは、人類学者であるトッドさんが国や地域を分析する時に使う考え方です。

それぞれ伝統的にどう家族を作るのか、その固有のかたちが社会全体の価値観を決めるというのです。

 

フランスでは平等な男女が核となり、独立した家族を作ります。

子どもは結婚すると家から出て独立し、新たな家族を作ります。

この個人に基礎を置くシステムから生まれた価値観があるため、フランスでは公が子育てをサポートする体制が整っているのだといいます。

 

トッドさんは、次のようにおっしゃっています。

「人類学的にフランスと日本の家族システムを比較してみましょう。」

「この(フランスの)システムでは男女が平等です。」

「だからこそ子どもを自由に産むことが出来るのです。」

「女性は仕事をしながら、子育てをすることも出来ます。」

「日本の場合は全く違います。」

「男性と女性が結婚して子どもが出来る、すると重視されるのは男の子の結婚です。」

「なぜなら「跡継ぎ」という概念があるからです。」

「特に長男が子どもを作ると重要な跡継ぎとなり、三世代が一つの家族のようになります。」

「こうした考え方は今の東京では減ってきたと思いますが、実はまだまだ日本の価値観を深いところで規定しているのです。」

 

個人を中心とした家族ではなく世代を超えてつながり家を存続させる、この「家」という存在を第一に考え、大切にするのが日本のかたちだといいます。

そして、こうしたかたちが日本的な「直系家族」、いわゆる「家」というシステムだといいます。

 

いまだに少ない女性の社会参加、過酷な労働を顧みないような会社至上主義、こうした様々な社会の息苦しさはこの「家」のシステムが生む伝統的な価値観が背景にあるとトッドさんは見ています。

これからの時代、この伝統的な価値観から脱却出来ないままだと、日本はどうなってしまうのでしょうか。

トッドさんは、次のようにおっしゃっています。

「私は日本のことがとても好きです。」

「だからそのシナリオは考えたくありません。」

「このまま価値観を変えず、高齢化が進むと悲惨なことになります。」

「例えばこんな考え方もあります。」

「定年を65歳から75歳にして、10年長く仕事をする。」

「しかし、それで大丈夫でしょうか。」

「年老いた社会は変化についていくのも一苦労。」

「グローバル化で様々な国が過酷な競争を繰り広げる中、老人の国となった日本はグローバル化の渦に飲み込まれてしまうでしょう。」

 

グローバリゼーションが巻き起こす激しい渦、次々にかたちを変えていく世界、日本が生き残っていくためには何が必要なのでしょうか。

トッドさんは、次のようにおっしゃっています。

「日本が世界で生き残るためには明治維新に匹敵するような価値観の革命が必要です。」

「今がまさに歴史の転換のタイミングなのです。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

個人を中心とした家族ではなく世代を超えてつながり家を存続させる、この「家」という存在を第一に考え、大切にするのが日本のかたちというトッドさんの指摘ですが、確かにまだまだ地方を中心に残っていると思います。

また、いまだに少ない女性の社会参加、過酷な労働を顧みないような会社至上主義、こうした様々な社会の息苦しさはこの「家」のシステムが生む伝統的な価値観が背景にあるという指摘については、“男尊女卑”、および“「個(個人)」よりも「公」の重視”という価値観が私たち日本人の心の奥底にまだ根強く残っていることにつながるように思います。

確かに、“男尊女卑”は誇れることではありませんが、“「個」よりも「公」の重視”という価値観は一概に否定すべきものではないと思います。

しかし、過酷な労働を顧みないような会社至上主義については、最近関心を集めている「過労死」から連想されるのが太平洋戦争末期の「特攻(特別攻撃隊)」です。

「過労死」も「特攻」も究極の“「個」よりも「公」の重視”の価値観の行き着く先だと思います。

しかし、だからといって“「個」を重視するあまり「公」が軽視されるような価値観も殺伐とした社会になってしまいます。

 

また、トッドさんは番組の中で触れておりませんでしたが、日本の「家」システムが生む伝統的な価値観の根底には、今関心が集まっている世界に類を見ない天皇制システムがあるのではないかという気がします。

 

ということで、トッドさんが問題提起されている「日本が世界で生き残るためには明治維新に匹敵するような価値観の革命が必要」であることについて私なりに考えた価値観の革命に必要な要件について以下にまとめてみました。

・「個」と「公」のバランスの取れた価値観を形成すること

・そのうえでそれぞれの「個」の価値観に沿った生き方が出来るような環境を整備すること

・持続可能な社会の実現       

                                           

なお、なぜ持続可能な社会の実現を要件に加えたかと言えば、地球環境問題や化石燃料の枯渇問題の解決、あるいはこうした問題の解決とバランスを取った人々の豊かな暮らしに必要なモノやサービスを提供する経済システムの維持を実現しなければ、人類の存続、および豊かな暮らしに必要な社会環境の維持が危うくなるからです。


 
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2016年11月27日
No.3558 ちょっと一休み その570 『トランプ次期アメリカ大統領誕生に見る有権者の不満が変化を求める危険な賭け!』

これまで何度か今回のアメリカ大統領選に関してお伝えしてきましたが、今回はトランプ次期アメリカ大統領誕生に見る国民の不満が変化を求める危険な賭けについてお伝えします。

 

11月13日(日)放送の「新報道2001」(フジテレビ)でアメリカ大統領選について取り上げていました.

その中でアメリカ・カリフォルニア州弁護士のケント・ギルバートさんが「何を重視して投票したか?」という問いに対する大統領選の出口調査結果(出典:NBC)を示していたのでまずご紹介します。

                          (%)

                   クリントン トランプ

私たちのような人間を面倒見てくれる  58    35

変革をもたらす            14    83

正しい経験              90     8

判断力                66    26

 

また、11月15日(火)放送の「視点・論点」(NHK総合テレビ)でもアメリカ大統領選について取り上げていました.

なお、論者は東京大学大学院教授の久保 文明さんでした。

その中で人種別の投票行動についての出口調査結果(出典:CNN)は以下の通りです。

                      (%)

          クリントン トランプ その他

白人  (70%)  37    58   5

黒人  (12%)  88     8   4

ラテン系(11%)  65    29   6

アジア系( 4%)  65    29   6

その他 ( 3%)  56    37   7

 

そして、白人/非白人、および大卒以上/大卒以外という分類での投票行動についての出口調査結果(出典:CNN)は以下の通りです。

                         (%)

              クリントン トランプ その他

白人 大卒以上 (37%)  45    49   6

白人 大卒以外 (34%)  28    67   5

非白人 大卒以上(13%)  71    23   6

非白人 大卒以外(16%)  75    20   5

 

そして、「アメリカは良い方に向かっているか?」という問いに対する大統領選の出口調査結果(出典:CNN)は以下の通りです。

                       (%)  

                クリントン トランプ 

良い方に向かっている(33%)  90    8 

悪い方に向かっている(62%)  25   69  

 

いかがでしょうか。

この出口調査結果から見る限り、以下のような多くの有権者の心の内が見て取れます。

・我慢の限界を超えた収入格差に対する不満が募っている

・中でも低学歴の白人層による不満が強かった

・この不満を解消するには、既存の実績豊富な政治家で基本的にオバマ政権の政策を踏襲するクリントンさんより破天荒であっても現状突破力のあるトランプさんの方に期待が持てる

 

まさに、久保さんのおっしゃるようにアメリカで最も人口の割合を多く占める白人、中でも低学歴の白人による選挙を通した“疑似革命”と言えます。

要するに、多くの有権者の投票にあたっての想いは人間的に尊敬出来なくても、また非常識な面があっても、とにかく現状さえ打破してくれれば誰でもいいということだったのです。

そして、こうした不満に対して、トランプさんは以下の公約の柱によって応えていたのです。

1.反不法移民

2.反自由貿易主義=保護貿易主義

3.反国際主義=孤立主義

 

こうした多くの有権者の考え方はとても危険な賭けだと思います。

こうした賭けは、独裁政権を生みやすく、かつてのドイツにおけるヒットラー政権の誕生、あるいは日本の国際連盟からの脱退および太平洋戦争への突入といった戦争への流れにつながる可能性が大きいのです。

逆に言えば、国民に大きな不満を持たせてしまうような政治は、「溺れる者は藁をも掴む」ということわざにもあるように、感情的でその場しのぎの短期的なメリットを求めてしまい、指導者として相応しくない候補者を選挙で選んでしまうことが往々にしてあることを歴史が証明しているのです。

 

ということで、国民の声に真摯に応えない政権に限らず、どんな理由があるにせよ、有権者に不満がうっ積してくるとやがて、有権者は先のことをとやかく考えず有権者に変革を訴える候補者に選挙で投票してしまう傾向があるのです。

ですから、私たち有権者はこうした傾向があるということを自覚したうえで常に理性的な精神状態を保つように心がけることが求められるのです。


 
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2016年11月26日
プロジェクト管理と日常生活 No.464 『絶えない高齢者の運転する車の衝突事故のリスク対応策!』

最近、高齢者の運転する車の衝突事故が連日のように報道されています。

そして、その事故原因には認知症、あるいは一般的な運動能力、判断力の低下などがあると言われています。

そうした中、一部の高齢者の中には免許返納の動きもあります。

また、報道によると、政府は今年7月12日、認知症の高齢ドライバーへの対策を強化する改正道路交通法施行令を閣議決定しました。

逆走や信号無視など18項目の交通違反をした75歳以上のドライバーに臨時の認知機能検査を課すとしています。

なお、この法律は来年3月12日に施行される予定です。

 

さて、5年前に、アイデアよもやま話 No.1877 ぶつからないクルマの進化!で自動車の自動ブレーキについてお伝えしましたが、今やどんどん自動ブレーキの標準装備が進みつつあります。

もし、今後発売する自動車は全て自動ブレーキを標準装備するように義務付ければ、認知症の高齢者のみならず多くの一般ドライバーによる衝突事故を防ぐことが出来るはずです。

こうした状況において、なぜ国は自動ブレーキの普及に積極的に動かないのでしょうか。

とても不思議に思います。

当然、自動車メーカーにもそれなりの事情があるとは思いますが、“安全第一”を掲げ、国は衝突事故防止のために自動ブレーキの普及に積極的に動いていただきたいと思います。

 

せっかくこうした先進技術があるにも係わらず、連日のようにたまたまその場に居合わせた登下校中の子どもたちや家族などの命が認知症ドライバーによる衝突事故の犠牲になっている報道を耳にするたびにいたたまれない気持ちになってしまいます。

現状では、いつ自分や自分の家族がちゃんと歩道を歩いていてもこうした被害に遭うか分からないのです。

 

自動車による衝突事故のリスク対応策として、免許更新時の講習や高齢ドライバーへの対策を強化する改正道路交通法施行も必要ですが、国は最も効果的である自動ブレーキの標準装備にもっと目を向けていただきたいと思います。


 
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2016年11月25日
アイデアよもやま話 No.3557 アメリカの大富豪が『格差是正』を訴える!

アメリカでは以前から所得格差が問題となっており、変化を求める多くの有権者の不満の高まりが今回の大統領選挙でもトランプ次期大統領誕生の大きなポイントなったと見られています。

そうした中、10月31日(日)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でアメリカの所得格差の実態について取り上げていたのでご紹介します。

 

現在、アメリカでは所得格差が広がって低賃金労働者が増えています。

中には、正規の給料をもらってもとても生活出来ないと訴える人たちも多いといいます。

ちなみに、アメリカ連邦政府が定めている最低賃金は1時間あたり7ドル25セントです。

 

ジャーナリストでこの日の番組の特別ゲストである池上 彰さんは、こうした人たちの相談に乗っている、アメリカ西海岸のシアトルにある労働組合「UFCW21」を取材で訪れました。

この日相談に来ていたのは、ウォルマートで働いていた女性たちでした。

メアリー・ワトキンスさんは、ウォルマートに15年間働いていましたが、去年解雇されました。

そのきっかけは、ワトキンスさんが去年のウォルマート株主総会の場でCEOと従業員の所得格差を次のように指摘したことでした。

「CEOは平均従業員の1000倍稼いでいる。」

「これをなくさなければならない。」

 

ワトキンスさんはこの直後、「勤務態度に問題がある」という理由で解雇されました。

実際、去年のCEOの年収は約1940ドル(約20億円)、これに対してフルタイムで働いても最低時給で働く人は年収200万円ほどです。

こうした状況からウォルマートの従業員は賃上げを訴え、各地でデモを繰り広げてきました。

解雇されたワトキンスさんも創業者一族がニューヨークの高級マンションの前で生活の苦しさを訴えました。

実際にワトキンスさんがいくらもらっていたのか給与明細書を見せてもらいました。

時給14ドル69セント、2週間で80時間働けるフルタイム雇用を希望していましたが、パートタイムのため54時間ほどしか働かせてもらえませんでしたので、手取りは713ドル18セント(約7万50000円)でした。

手取りで年収140万円足らず、働いているのに生活保護を受けざるを得ませんでした。

こうした中で、ワトキンスさんはワシントン州が給付する低所得者向け健康保険カード、そして食糧配給カードを持っていました。

 

こうした政府からの援助をウォルマートの従業員だけで年間約62億ドル(約6500億円)受けていたという調査結果があります。(2013年 Americans for Tax Fairness調べ)

これに対し、ウォルマートは「従業員の平均時給は全米の最低賃金を上回る」とし、「データは誤解を招く内容だ」と反論しています。

今年に入って、ウォルマートは最低時給を7.25ドル(760円)から10ドル(1050円)に引き上げました。

ワトキンスさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ウォルマートは世界で有数の金持ち企業なのに15年間働いた結果がこれなんて悲しすぎる。」

 

では、CEOと従業員との所得格差の過去のトレンドを見てみると、1970年代は20〜35倍くらいだったのが今や300倍近くに広がっているのです。

従業員の給料はあまり上がっていないのにCEOの給料はどんどん増えているのです。

ある調査では、アメリカの労働人口の約44%は年収250万円に満たないとも言われています。

その理由は多くの人たちが時給で働くパートタイマーだからだといいます。

なのでクリントン候補は最低賃金を上げることが大切だと訴えていたのです。

 

実は、アメリカ有数の大富豪で企業経営者であるシアトル在住の異色の人物が格差是正を訴えているのです。

それはニック・ハナウアーさんで、総資産約1000億円の超富裕層です。

30社以上にわたって会社設立や投資を手掛けてきました。

大富豪の立場を利用し、政治面でも影響を及ぼし、メディアにも頻繁に露出、時給15ドルへの最低賃金引き上げを提唱しています。

それこそが格差是正の第一歩であり、企業にとってもメリットがるといいます。

ハナウアーさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「「金持ちを優遇すれば雇用が生まれるが、最低賃金を上げると雇用が失われる」とよく言われるが、嘘だ。」

「単なる脅迫に過ぎない。」

「人々がもっと稼げば消費が増えて企業は雇用を増やすことが出来る。」

 

経営者でもあるハナウアーさん、企業の幹部が巨額の報酬を得られるのはある特別な仕組み、すなわちCEOの最大の収入源であるストックオプションがあるからだといいます。

ストックオプションと売却益は、あらかじめ決められた価格で自社株を購入出来る権利で、株価が上がるほど売却益が増えます。

データを見てみると、企業幹部の報酬は1980年台までほとんどが現金でしたが、1990年代から徐々に逆転、いまではほとんどがストックオプションになっています。

こうして、株価が最高値圏にある今、幹部の報酬はより拡大しているのです。

ハナウアーさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「これが金持ちがより金持ちになり、他は貧しくなっていく仕組みだ。」

「(あなた自身大富豪なのになぜそう考えるのかという問いに対して、)それは真実だからだ。」

「道徳的に正しくて、国や国民にとってすべきことだからだ。」

「どの資本主義国も経営者と従業員の力関係を均衡させる方法を見つけ出すべきだ。」

 

本来、株主に報いるというストックオプションなのですが、結果的にストックオプションが増えていけば、企業経営者の報酬も増え、ストックオプションを持たない従業員との所得格差がより開いていくということになっているのです。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

今回はアメリカにおける所得格差についてご紹介してきましたが、こうした格差社会は今や日本も例外ではなく、大なり小なり世界各国共通の課題のようです。

そして、ハナウアーさんの指摘されている企業幹部に対するストックオプションやアイデアよもやま話 No.3433 パナマ文書から見えてきたこと その1 課税逃れの実態!でご紹介した世界中の大企業や富裕層による多額の税金逃れが格差社会の元凶であることが見えてきました。

ところが、今のところストックオプションへの対応やパナマ文書に見られる税金逃れに対する対応の具体的な動きは見られません。

格差社会のこうした元凶が明らかになったのですから、世界各国の政府が共同で格差問題に取り組めば、適正な税金の確保、および所得配分がなされるのです。

その結果、各国政府の財政状況の改善、および格差是正も図られるはずです。

 

ということで、各国政府はこうした共通の課題解決に協力して邁進していただきたいと思います。

また、同時に各国の経済学者は格差社会が長期的に見て経済を衰退させるということを声を大にして理論的な裏付けを持って訴えていただきたいと思います。


 
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2016年11月24日
アイデアよもやま話 No.3554 あのウーバーが新たに”デリバリーサービス”を開始!

世界60ヵ国でスマホを使った配車サービスを展開しているウーバー(Uber)については、アイデアよもやま話 No.3382 ウーバーによるタクシー革命!などでこれまで何度かお伝えしてきました。

そうした中、9月28日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でウーバーによる新たなデリバリーサービスについて取り上げていたのでご紹介します。

 

ウーバーは9月28日に開催された新サービスの発表会で9月29日から日本で開始する“ウーバーイーツ(UberEATS)”というデリバリーサービスを発表しました。

料理を提供するのはこれまでデリバリーをしていないお店がほとんど、それを運ぶのは“ウーバーイーツ”に登録した一般人です。

自分の自転車やバイクで配達します。

ウーバーはお店と運ぶスタッフをマッチングし、手数料を取るシステムです。

スタッフには配達料が入ります。

そして、料理を提供するお店にもメリットがあるといいます。

ダル・マットグループの取締役、齊藤 誠さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「そこ(宅配)に対してのスタッフだったり自社でやる場合は難しい。」

「(このサービスで)いろいろな場面でうちの料理をご提供出来るという・・・」

 

このサービスを展開するウーバー、海外では一般のドライバーが自家用車にお客を乗せるライドシェアサービスを展開しています。

2014年に日本に進出しましたが、道路運送法に違反する可能性があるとしてごく一部の地域を除いては普及していません。

今回のデリバリーサービスについては、特に資格や免許も必要ありません。

更にこのシステムを使って新たなビジネスを展開しようともくろんでいます。

ウーバージャパンの社長、高橋 正巳さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「実は海外ではメッセンジャー便に近いような物のデリバリーサービスも開始してきておりまして、まだまだ弊社の需要と供給のマッチングのプラットフォームを生かすことで人だったり物だったりサービスだったり、いろんなものを今後も運んでいけるんじゃないかと期待しています。」

 

シェアリングサービスのウーバーは、自動車で人を運ぶのは日本の場合、まだまだ規制の問題もあるということでまずはデリバリーサービスを始めるということです。

番組コメンテーターで学習院大学の教授、伊藤 元重さんは、次のようにおっしゃっています。

「アマゾンはご存知のようにもの凄い勢いで伸びていって、物流が非常に厳しいんです、ネックでね。」

「そのアマゾンの物流にウーバーを使いましょうという試みがあるらしいんですよ。」

「どういうふうにやるかわかりませんけども、とにかくここからこういうものを動かしたいというニーズがいっぱいある時に、それに手を挙げる人いっぱいいますよね。」

「暇な人がちょっと日曜日にアルバイトやるとか、ひょっとしたら中小の物流業者で小さなトラック2つや3つ持っているところがどんどん入っていくと。」

「で、そういうふうに考えていくと、今日のは食事の販売だったんですけど、いろんなデリバリーがあって、特にアマゾンのようなどんどん伸びていくようなデリバリーのところっていうのはひょっとしたら今の既存の物流業者だけじゃなくてこういうかたちのいわゆるシェアリングはあり得るかもしれないですよね。」

「まあ、何でもいろんな資源を有効に使うって重要でね、シェアリングサービスでよく我々ウーバーとエアビーアンドビー(Airbnb)、部屋のシェアリングっていうんですけど、私は究極のシェアリングはスキルと人材だと思うんですよ。」

「いろんなスキルを持っている人いますでしょ。」

「それを登録しておいて短時間使う。」

「あるいは企業の方もその都度使っていくというんですか。」

「そういう意味ではウーバーのような?はまだいろんな広がりがあるかもしれませんね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

こうした動きをみると、あらためてインターネットという情報間のコミュニケーション・インフラの大変な威力を感じます。

考えてみれば、これまで繰り返しテクノロジーの進化とともに先駆的な企業により新しい商品やサービスが生まれてきました。

また、こうした先駆的な企業は既存の企業ではなく、異業種のベンチャー企業でした。

更に、こうした先駆的な企業は先入観がないことから柱となるテクノロジーを生かして対象とする商品やサービスの幅を拡大してきました。

例えば、アマゾンは当初は本やCDを販売対象としていましたが、今や日用品全般を扱っています。

同様に、ウーバーも当初は一般ドライバーを利用した配車サービスのみでしたが、そのシステムを生かして今や様々なデリバリーサービスの世界展開を進めようとしています。

そして、そのアマゾンとウーバーは物流における協業を進める動きがあるというのです。

 

こうしたシェアリングサービスの流れの行き着く先として以下のような状況がイメージ出来ます。

・一般人が容易に自分のスキルを生かせる仕事を見つけて働く機会を得ることが出来る

・商品の購入者やサービスを受けるユーザーは、これまでよりも低価格で購入したり、サービスを受けることが出来るようになる

・既存の販売業者や配送業者は一般人には出来ない特化したサービスを提供出来なければ、生き残ることが出来ない

 

こうした状況は、伊藤さんのおっしゃっているようにまさに“究極のシェアリングはスキルと人材”ということになります。

 

さて、こうして考えてくると、アマゾンやウーバーのサービスの本質は商品やサービスを望む消費者やユーザーとそうした商品やサービスの提供者、すなわち需要と供給とのマッチングであるということが見えてきました。

そして、シェアリングはそうした結果もたらされる成果の一つとして位置付けられるのです。


 
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2016年11月23日
アイデアよもやま話 No. 3555 AIの”人材争奪戦”が激化!

9月25日(日)放送のニュース(NHK総合テレビ)でAIの”人材争奪戦”激化について取り上げていたのでご紹介します。

 

自動車の自動運転技術や掃除するロボットなど幅広い分野への活用が広がっているAI(人工知能)ですが、今AIの開発を担う技術者の争奪戦が国際的に激しくなっています。

日本の企業の中には、学生など早い段階から人材を確保しようとする動きが始まっています。

 

AIを駆使した囲碁のコンピューター・ソフトと世界トップクラスの棋士との5番勝負、AIが4勝1敗と世界に衝撃を与えました。

開発したのはグーグルが約400億円で買収したベンチャー企業でした。

アメリカの大手IT企業は企業の買収で人材を丸ごと獲得する戦略を進めています。

ファイスブックやアップルはこの3年でベンチャー企業を次々と買収しました。

日本のトヨタ自動車もグーグルからロボット開発のトップを引き抜くなど人材の獲得競争が激しくなっています。

 

こうした中、日本のベンチャー企業では人材確保の取り組みが始まっています。

東京都港区にある、あるベンチャー企業、ファベルカンパニーでは検索サイトに含まれる膨大なデータをもとに消費者のニーズなどをAIを使って分析しています。

サービスの仕組みは、利用者が“立ち飲み”という言葉を検索した場合、AIは過去のデータから“新宿”という地名も一緒に検索され易いと分析します。

更に、“立ち飲み”、“新宿”を引いた人は“1人”というキーワードでも検索することが多いと分析し、サイトの運営会社にこうした情報を提供することでより効率的に利用者に選択肢を示すことが出来るといいます。

分析作業を担う技術者は現在10人ほどで、事業の拡大に合わせて社員を増やしたいと考えています。

しかし、大手や海外の企業と人材を奪い合う状況で慢性的な人手不足が続いていました。

 

そこで人材獲得のため、AIを専門にしたインターンシップを始めました。

期間は5日間、日給2万4000円を支払って企画の立案などを体験してもらいます。

今回は6人の学生が参加しましたが、学生の反応は上々だったようです。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

これまで何度となく繰り返しお伝えしてきたように、今は21世紀技術革命といえるくらい、様々なテクノロジーが開花しようとしています。

例えば、AI、ロボット、IoT(Internet Of Things)、ビッグデータ、再生医療などです。

また、こうしたテクノロジーは私たちの日々の暮らしを様々なかたちで便利にしてくれる可能性を秘めています。

ですから、当然多くの企業は規模の大小に係わらずこうしたテクノロジーを駆使した事業にシフトしていきます。

一方で、新しいテクノロジーの分野の人材は多くはありませんから、新しいテクノロジーの開花段階では特に人材不足が発生します。

 

こうした場合、大きく以下の3つの対策が考えられます。

・企業による自助努力

・大学による新たしいクノロジーの学科などへの取り込み

・政府による研究開発推進のための補助金などによる支援

 

しかし、大学や政府による対応体制が整うには時間がかかります。

ですから、今回ご紹介したような大手企業によるベンチャー企業の買収、あるいはベンチャー企業によるインターンシップは短期的な人材獲得手段としてはとても現実的だと思います。

なお、大掛かりに国の産業構造をあるべき方向へと転換していくためには、そもそもあるべき姿を国が国民に提示し、理解を得たうえで大学やその他の研究機関、あるいは企業に対して環境整備や補助金など様々な支援を計画的に実施していくことが長期的には求められるのです。


 
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2016年11月22日
アイデアよもやま話 No.3554 フィンテックで変わる私たちの暮らし!

金融とITを組み合わせた事業・サービス、すなわちフィンテックについては以前ご紹介したことがありますが、9月21日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でフィンテックで変わる私たちの暮らしについて取り上げていたのでご紹介します。

 

9月21日から22日にかけて開催された「フィンテック・サミット」により、世界中で急速に広がるフィンテックの最新技術が東京に集結しました。

フィンテックでどう時代が変わるのか、以下にご紹介します。

エイト証券では、ロボットが投資家の最適なポートフォリオをつくって提供する投資指南サービスを提供しています。

年齢や収入など簡単な情報を入力するとAI(人工知能)がどの国のどのような金融商品が自分の投資先として最適か提案し、実際に運用してくれます。

 

一方、マネーツリーでは、複数の銀行口座、クレジットカード、電子マネー、ポイントなどを一つの画面で管理出来るサービスを提供しています。

銀行やクレジットカードを登録すると、カードの明細などから自動で家計簿を作成してくれます。

また、AIが店の名前から自動で項目を振り分けてくれます。

ポイントも一括して管理でき、有効期限も知らせてくれます。

 

日々新たに登場するフィンテックが私たちの暮らしを大きく変えつつあります。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

特に、家計簿を自動で作成してくれるサービスは家計を預かる主婦にとってはとてもありがたいサービスだと思います。

また、投資指南サービスもこれから投資をしてみたいと考えている人にとってはありがたいサービスだと思います。

 

さて、フィンテックとは、煎じ詰めれば集めた金融関連の電子データをAIにより整理・分析し、様々な需要に応じて提供するサービスと言えます。

ですから、今後IoT(Internet Of Things)、ビッグデータなどの拡大とともに金融関連のみならず、生活全般が電子データとAIの組み合わせにより様々なサービスが受けられるようになっていくと見込まれます。


 
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2016年11月21日
アイデアよもやま話 No.3553 国家予算に見る日本政府のエネルギー政策の本気度!

9月21日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で日本政府のエネルギー政策について取り上げていたのでご紹介します。

 

IEA(国際エネルギー機関)は東日本大震災後初めて日本のエネルギー政策を評価した報告書を報告しました。

原発の停止で化石燃料への依存度が大幅に高まった中、2030年度に政府が目標としている温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減するためには一部の原発の再稼働が重要だと提案しています。

更に、2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で80%削減するためには再生可能エネルギーなど新たな技術が不可欠だと指摘しています。

 

こうした状況について、番組コメンテーターであるモルガン・スタンレーMUFG証券チーフエコノミストのロバート・A・フェルドマンさんは次のようにおっしゃっています。

「問題は、今存在している技術をどうやってインフラを整備して広げていくかっていうことですね。」

「応用ですね。」

「その点で、いろんな国が同じ問題ありますけども予算ですね。」

「例えば、今日IEAさんが出したレポートの中で、日本がエネルギーのR&D(研究開発)のために使っているお金はいくらかというと、0.3兆円です。」

「社会保障は130兆円ですよね。」

「なんで(エネルギー関連には)0.3兆円しか使ってないのかって当然思いますね、少ないですね。」

「日本は、天才、エネルギー・オタクがいっぱいいます。」

「たとえばNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)ってありますね。」

「素晴らしいことやっています。」

「だけど、もうちょっとペースアップしてもっと早く目標を達成出来るようにした方が国の一つの使命になれると思うので頑張っていただきたいなと思いますね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

フェルドマンさんも指摘されているように、日本のエネルギー政策に投じる予算はあまりにも少なすぎると思います。

確かに社会保障も大事ですが、地球温暖化が進めば、豪雨やスーパー台風などの発生頻度が増え、日本各地に被害をもたらします。

ですから、こうした被害を少しでも緩和するためには地球温暖化対策を早急に進める必要があるのです。

また、新エネルギー政策を進めることは新たな経済効果をもたらします。

更に、これまでにないような革新的な再生可能エネルギーを開発し、それを世界展開することによって地球規模での温室効果ガスの排出量の削減に大いに貢献することが出来るのです。

 

残念ながら、国家予算から見える日本政府のエネルギー政策の本気度はほとんど見えてきません。

更に、日本、インド両政府は11月11日に日印原子力協定を署名しました。

電力不足に悩み、日本の原発技術の導入を目指してきたインドにとってこの協定は悲願だということです。

しかし、日本国内では福島第一原発事故以来、原発再稼働に反対する国民の声の大きさに再稼働の動きはほとんど進んでおりません。

このような原発を海外に向けて展開しようとする政府の動きはあまりにも短期的な国益に沿った決断と言わざるを得ません。

 

IEAからは一部の原発の再稼働が重要だと提案されておりますが、是非、日本政府には“脱原発”、および再生可能エネルギーの活用という方針で国内、および海外へのエネルギー政策を進めていただきたいと思います。


 
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2016年11月20日
No.3552 ちょっと一休み その569 『“トランプ大統領”誕生のキーはツイッターだった!?』

前回、アイデアよもやま話 No.3551 クチコミが地価上昇の原動力に!で最近脚光を浴びているクチコミの世界規模での宣伝効果の威力についてお伝えしました。

また、No.3546 ちょっと一休み その568 『アメリカ大統領選の結果から見えてくること』でアメリカ大統領選の結果の背景やトランプ政権の抱えるリスクについてお伝えしました。

今回は、11月12日(土)放送の「“トランプ大統領”の衝撃」をテーマとする「NHKスペシャル」(NHK総合テレビ)を通して、“トランプ大統領”誕生を導いた大きな柱の一つとして、選挙戦術におけるクチコミの威力についてご紹介します。

 

「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」、アメリカにとって大事なのは、他の国のことではなくて、第一にアメリカ自身の利益なのだというのがトランプ次期大統領の主張です。

これまで負担を背負い、時に犠牲を払ってでも世界のリーダーであり続けることに大きな価値を置いてきたアメリカ、そのアメリカはトランプさんを大統領に選んだことによって進路を内向きの方向へと大きく転換しようとしています。

アメリカという世界の重しが失われるのではないかという予感に国際社会はトランプさんが打つ次の一手を息を飲んで見守っています。

そして、アメリカ国民自身が分断され、今回の選挙結果を受け入れきれずにいます。

 

トランプさんを時期大統領へと押し上げた原動力、つまり現状に不満を強める怒りのマグマの大きさを既存の大手メディアの多くがその予測を見誤りました。

開票の当日、ABCテレビの選挙速報番組では、開票から1時間経ってもクリントンさんの勝つ可能性は71%と圧倒的に有利だと伝え続けていました。

ところが、開票から5時間後、正反対の予測に差し替えるという異例の事態となりました。

この番組でコメンテーターを務めたクッキー・ロバーツ記者は、エミー賞などを受賞してきたベテラン ジャーナリストです。

50年におよぶ記者生活でも経験したことのない事態だったといいます。

ロバーツ記者は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「まさか有権者がトランプ氏という賭けを選ぶほどチェンジを求めていたとは思っていませんでした。」

「もっと有権者の声に耳を傾けるべきでした。」

 

なぜチェンジを求める声をつかめなかったのか、その理由の一つはトランプさんが既存のメディアだけではなく直接支持者に訴えたことだったといいます。

その手段がツイッターでした。

トランプさんは過激な発言を繰り返し支持者に訴えました。

それを受け取った支持者が差別的な発言などを次々と掲載、人々の不満や怒りがインターネット上で煽られ、支持が集まっていったのです。

既存のメディアはそれを取り上げ、更に拡散させました。

しかし、過激な発言は限られた人のものでそれほど多くには浸透していないと見ていたといいます。

こうした状況について、ロバーツ記者は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「なぜあれほど人々がツイッター上で汚い言葉を使って憎しみを吐き出すのか、私たちには理解出来ていませんでした。」

「しかし、トランプ氏はネットを通じてそれを引き出すやり方を知っていました。」

「これほどツイッターが影響した選挙は初めてでした。」

 

ツイッターを通じて直接有権者に発信し続けたトランプさんは、既存のメディアは既得権益側であり、信用出来ないと繰り返し次のように攻撃しました。

「とても不誠実で、腐敗したメディアが有権者を毒している。」

 

トランプさんの言葉に反応した支持者たちはメディアを敵視するようになります。

既存のメディアと有権者の溝が深まる中、世論調査に本音を明かさなかった有権者も少なくなかったと見られています。

こうした状況について、ロバーツ記者は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「トランプ氏に投票することを隠した有権者がいたため、世論調査が間違ってしまったのではないかと見ています。」

「「隠れトランプ支持者」の票が多くあった、それが現実だったのです。」

 

チェンジを求める「隠れトランプ支持者」の広がりを把握出来なかった既存のメディアは、選挙で初めて気づいた世論の大きさに動揺を隠せないでいます。

ワシントン・ポスト紙のジョナサン・ケープハートさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「言葉になりません。」

「オバマ大統領が選ばれた時はこの国にとって輝かしい瞬間でした。」

「でも、あと2ヵ月でその全てが消えてなくなってしまう。」

「1人のアメリカ人として怯えています。」

 

以上、クチコミサイト、ツイッターに焦点を当てて番組の内容をご紹介してきました。

確かに、トランプ次期大統領誕生の背景はアメリカの格差社会の拡大にあると思います。

しかし、トランプさんが既存のメディアを信用せず、ツイッターを通じて過激な言葉で格差に苦しめられている多くの有権者に直接語りかけ、変化を求める有権者の心を揺り動かし、投票所へと向かわせたことは無視出来ません。

 

この1点だけを取り上げると、織田信長・徳川家康連合軍と武田勝頼との長篠の戦いが思い浮かんできます。

織田信長がこの戦いで勝利した勝因の1つは大量の鉄砲の投入と言われています。

トランプさんは、織田信長と同様にクチコミサイトのツイッターのメリットを最大限に生かして、クリントンさんの圧倒的な資金力の多さに比べてとても資金のかからない効率的な選挙活動を繰り広げたのです。

これだけ知恵の働くトランプさんなのですから、「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」と言わずに世界各国の共存共栄を目指してアメリカ大統領としての職務を全うしていただきたいと思います。

 

今になって思えば、投票日直前での2人の候補者の予想得票数にはほとんど差がなかったこと、そして大手メディアは「隠れトランプ支持者」を把握していなかったことを考えると、トランプさんの勝利の可能性は大手メディアの予想に反してとても大きかったと言えます。

アメリカの大手メディアは今このことに大変ショックを受けているようです。

 

ということで、今回の大統領選挙は新しいステージの選挙運動の幕開けと言えます・

今回のトランプさん勝利の選挙戦術は、今後の世界の選挙運動に大いに参考にされると思います。

一方、既存のメディアはしばらくの間、選挙の開票結果の予想の精度を上げるために試行錯誤が続くと思われます。

 

さて、広告業界は既存の新聞や雑誌、あるいはテレビ、ラジオなどを媒体とする広告宣伝をしていた時代から、既にインターネットの世界に乗り出しています。

同様に、既存の大手メディアも予想の精度を高めていくために選挙の開票予想についてはインターネット上のクチコミサイトなど新しい媒体も活用するように変化していくと思われます。

そうなると、AI(人工知能)やビッグデータ、更にはIoT(Interenet Of Things)などのテクノロジーがより効率的な選挙運動やより精度の高い開票結果予想に活用されるようになると見込まれます。

こうした時代の到来は究極の選挙全体のイメージを作り上げていくと思われます。


 
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2016年11月19日
プロジェクト管理と日常生活 No.463 『カントの著作に見る戦争勃発のリスク対応策 その4 “知性”こそが永遠平和のカギ!』

多くの人々が平和を願っている一方で、常に世界中のどこかで紛争や戦争が絶えず起きています。

そこで、プロジェクト管理と日常生活 No.459 『国家間のより強い依存関係こそ戦争勃発の最適なリスク対応策』ではプロジェクト管理の考え方に沿って、国家間のより強い依存関係の構築こそが平和維持にとってとても重要であるとお伝えしました。

そうした中、8月1日(月)から4回にわたり放送された「100分de名著」(NHK Eテレ東京)で「カント “永遠平和のために”」をテーマに取り上げていたので戦争勃発のリスク対応策の観点から4回にわたってご紹介します。

4回目は、“知性”こそが永遠平和のカギであることについてです。

なお、番組の講師は哲学者で津田塾大学教授の萱野 稔人さんでした。

 

人間は遥か昔から人間同士の争いを避けるため法律を定め、国家を作りました。

しかし、国家同士の争いは絶えません。

18世紀のヨーロッパを代表するドイツの哲学者、イマヌエル・カント(1724-1804)はその著書、『永遠平和のために』(1795年刊行)の中で永久に戦争の起こらない世界をどうしたら導くことが出来るのかを追求しました。

そして、カントは国家と国家の間にも同じように平和を導くための法律が必要だと説きました。

更に、その法律には全ての国家が守ることが出来るよう、公平な道徳が不可欠だと主張したのです。

しかし、この道徳は私たちが考えている道徳とはかなり違います。

萱野さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「カントは『永遠平和のために』の中で「道徳と政治の一致について」というテーマで半分くらいの分量を割いて、カントが熱を入れて論じたのは分かるんですけども、では政治は道徳的に営まれれば永遠平和を実現するんだということを述べているわけでは必ずしもないんですよ。」

「カントにとって、永遠平和が実現されるっていうのは各国が法を尊重して法に基づいて紛争を解決しましょうと、そういう状態をいかに実現するかっていうことなんですよ。」

「で、法が多くの国によって守られていくということを実現するためには実は道徳に着目することが大事なんだっていうのがここでもカントの問題意識になります。」

 

カントは、永遠平和を達成するためには全ての国が無条件に納得出来る道徳をベースにした法律に従わなければならないと考えました。

それを公法の状態と呼んで、次のように記しています。

「公法の状態を実現することは義務であり、同時に根拠のある希望でもある。これが実現されるのがたとえ無限に遠い将来のことであり、その実現に向けて絶えず進んでいくだけとしてもである。だから永遠平和は(中略)単なる空虚な理念でもなく実現すべき課題である。」

 

公法の状態とはあらゆる国家が共通の法に従っている状態のこと、そのためには法律が誰にでも例外なく公平であることが必要です。

そして、法律を公平にするためには、法律のベースになる法律自体が誰がどんな場合でも無条件に従うべきものでなければなりません。

これを道徳と政治の一致とカントは言います。

しかし、カントの言う道徳は私たちが普段考える道徳とは少し違うのです。

 

例えば、嘘をついてはいけない、この道徳についてカントは考えます。

多くの人は嘘をつくことはいけないことだと考えています。

しかし、例えばある女性が夫から何年間も毎日のように暴力を受けていました。

ある日、彼女は耐えきれなくなって友人であるあなたの家に逃げてきました。

あなたは友人をかくまいます。

しかし、すぐに夫はあなたの家にやって来て、私の妻はいないかと聞いてきました。

この場合、正しい道徳に沿って考えれば、嘘をつくのはいけない行為なので嘘をつかず被害者の友人をかくまっていることを正直に言わなければなりません。

しかし、カントは道徳を内容ではなく形式で考えました。

道徳を内容で考えると、嘘をつかないという原則を貫かなければならなくなります。

一方、形式で考えるということをカントは次のように言います。

「汝の主観的な原則が普遍的な法則となることを求める意志に従って行動せよ。」

 

つまり、形式で考えると道徳は誰もが行ってもいいと思えることをどんな場合でも行わなければならないという普遍的な法則になります。

この場合、暴力をふるった夫に嘘をついて被害者をかくまうということを誰がやったとしてもいいと思えるならば嘘をついても道徳的になるということなのです。

どんな場合でも誰もが例外なく従わなくてはならないと迫ってくる道徳の力こそが道徳の形式だとカントは考えるのです。

萱野さんは、この道徳の内容と形式について次のように解説されております。

「内容で考えている限り、いろんな矛盾する状況が出てくるわけですよ。」

「で、カントが着目するのは我々が道徳的と考えることは一体何なのっていうことなんですよ。」

「嘘をついてでも道徳的だと思うことがあるわけですよね。」

「では、その時の道徳的ってどうやって表現したらいいのってことなんですよ。」

「となると、みんながこうすべきことだって思えることが道徳だって言うしかないんですよね。」

「それが形式で考えること。」

「誰もが行うべきだと考えること、これが「普遍的な法則」、そして「汝の主観的な原則」っていうのは私がやろうとしていることと考えて下さい。」

「だから、私がやろうとしていることが誰もが行うべきだと考えられるような、そんな意志に従って行動すべきなんですよ。」

「一言で言えば、誰もがやってもいいと思えることだけをやって下さいよっていうことなんですよね。」

「(先ほどのドメスティック・バイオレンス(DV)の例で、内容と形式の具体的な違いについての問いに対して、)判断の基準はDVの被害者を助けるために誰もが嘘をついてでも助けるべきだと考えられるならその行動は道徳的だということになるし、やはりこの時は嘘をつくべきではないと誰もが思えるならばこちらが道徳的となると。」

「形式に注目するというのは公平性を確保するっていうことなんですよ。」

「自分だけはいいとか、そういう例外を認めないってことなんですよね。」

「これが公平性につながるとカントは考えたんですよ。」

「政治と道徳は一致しなければいけないとカントが主張するのもこういった公平さを道徳が表しているからなんです。」

「その公平さを法の次元にもちゃんと導入しましょうよ。」

「例えば、国際関係のもとでは法律を強制するものってないですよね。」

「法を守ってもらうには法があらゆる国にとって公平でなければならない。」

「ある国は守らなくていいっていうようなことがあったり、こういう時に関しては例外を認めますよっていうことがあったりすると、みんな法を守るのが馬鹿らしくなって法を守らなくなるじゃないですか。」

「なので、法をあらゆる国が尊重するためには法に公平性が実現されていなければならない。」

「公平性ってのはどう考えたらいいかというと、道徳を形式的に考えることから導き出されますよっていうのがカントの一連の考えのステップなんですね。」

 

では、法律を公平なものにするためにどうするか、カントは次のように記しています。

「邪悪な悪魔でも知性さえ備えていれば、法律を作り国家を作ることが出来る。」

 

では、欲深い悪魔がどうすれば公平な法律を作ることが出来るのでしょうか。

悪魔たちの前に美味しそうな大きなケーキが置いてあります。

すると悪魔たちは欲深いのですぐに争いを始め、ケーキの取り合いをしてしまいます。

悪魔たちの争いを止めるような公平な切り方は出来るのでしょうか。

カントの考え方に基づくと、形式を定めて切ることによって誰もが納得する公平な切り方になります。

ポイントは、どの悪魔がケーキを切り分けても自分だけ大きくしないようにすることです。

そこで、ケーキを切る係の悪魔が最後にケーキを取るというルールを決めました。

このルールがあれば、悪魔たちは自分の欲望を最優先して最後に自分が受け取るケーキが他の悪魔より小さくならないように一生懸命考えます。

その結果、均等に切り分けることが自分にとって一番得になるという結論に至ります。

つまり、どの悪魔が切ってもケーキは均等に切り分けられ、争いは起きなくなるのです。

このように、一人の例外も出さずに誰もが均等になるということ、これが公平性が担保されている状態なのです。

萱野さんは、この例について次のように解説されております。

「利己心を認めたうえで平和がもたらされるようにするというのがカントの出発点だったんですよね。」

「利己心があればあるほど公平に切らざるを得ないわけですよ。」

「例えば、今回は悪魔が3人でケーキがこれくらいの大きさかもしれないけども、悪魔が8人でケーキの大きさはこれくらいかもしれない。」

「で、その都度こう切るのが公平ですよって定めていたらきりがないですよね。」

「そうすると、1回で済むようなルールを考えると、ケーキを切った人が最後に選ぶようにしましょうっていうルールで方が付く(決着する)んですよね。」

「これが形式で考えるってことなんですよ。」

「2つ目のポイントは、誰がやっても同じようになるっていうことなんですよね。」

「この人に任せればうまくいくっていうことでは嘘をついている可能性もありますからね。」

「ということは、誰が切っても同じ結果になるような形式を定めましょう。」

「そこに公平性の実現がなされる可能性がありますよっていうのがカントの考えなんですよね。」

「カントは、公平性を実現する過程には終わりがないというふうに考えたんですよ。」

「終わりのないプロセスの中で少しずつ公平性を高めていくべきだと。」

「その点でいうと、現在の法律でも終わりがないんですよね。」

「こういった公平性を少しでも実現していくことが法に対する尊敬、あるいは我々が守ろうとする気持ちを高めるんだと(カントは)考えたんですね。」

 

更に、法律の公平性を保つために必要なものがあるとカントは次のように記しています。

「国家における国民と国家間の関係に関して、経験によって与えられている様々な関係から法学者が普通想定するような公法の全ての内容を捨象(抽象)してみよう。すると残るのは公開性という形式である。いかなる法的な要求でも公開しうるという可能性を含んでいる。公開性なしにはいかなる正義もあり得ないし、いかなる法もなくなるからだ。」

 

公開性というのは、全ての人の眼差しに耐えうるものであるということです。

法は、公開されたものでなくては法としての意味が全くありません。

公開されないと誰もその内容を知ることが出来ず、その法に従うことも出来ないからです。

先ほどの悪魔たちの例で、今度はケーキを切る時に他の悪魔に見られないようにカーテンの閉まった密室で行うことにします。

密室の中で欲深い悪魔はケーキを均等に切るというルールを破ってしまいます。

そして、自分の分だけ大きく切って他の悪魔には残りのケーキを均等に切って黙って渡そうとします。

しかし、ここでカーテンが開くと、切り分けた悪魔が大きなケーキを持っていることがバレてしまいました。

すると大問題になります。

悪魔たちはケーキの奪い合いを始め、争いが起きます。

みんなの目にさらされていれば、理性に歯止めが効き、公平に切り分けられたはずです。

つまり、公開性が公平性を守る条件なのです。

 

カントは最初に永遠平和とは公法の状態を実現することであると言いました。

このように、形式にこだわれば自ずと公平性が実現されて世界は永遠平和へと導かれると説いており、次のように記しています。

「人間愛と人間の法に対する尊敬はどちらも義務として求められるものである。」

「しかし、人間愛は条件付きの義務に過ぎないが、法に対する尊敬は無条件的な義務であり端的に命令する義務である。法に対する尊敬の義務を決して踏みにじらないことを心から確信している人だけが人間愛の営みにおいて慈善の甘美な感情に身をゆだねることが許されるのである。」

 

カントは、永遠平和を実現するには人間愛よりも法に対する尊厳が大切であると考えているのです。

人間の本質を善と捉える理想論は平和を構築するためには無力でした。

平和のためには、理想を超えた哲学が不可欠だと考えるのです。

 

萱野さんは、法の公開性について次のように解説されております。

「公開性っていうのは全ての人のまなざしに耐えうるということなんですよね。」

「公開性があれば、最終的には他人にも同じことを認めざるを得なくなりますよね。」

「自分だけ有利な法律を作っておいて運用しようとしても、それが公開されたら俺だってこれ認めろよっていう話になってきますから、結局は公平性、みんなが同じようにすると。」

「誰かが特別扱いされないっていうような状況が少しずつ実現されてきますよね。」

「公開されてみんなの検証に耐えうることが大事だというのがカントにとっての提言ですよね。」

「(国家と国家の間の法律においても公開性が重要なのかという問いに対して、)そうですね、国家と国家の関係で一番重要なのは強制力を行使するような機関がない中で各国に法律を守ってもらうことが永遠平和にとって一番大事なんだと。」

「そのためには法律を各国が尊重しなければいけない。」

「では、各国が法律を尊重するためには法律が公平なものでなければいけない。」

「でも、国際的な関係というのは、強国が自分の都合のいいように法律、国際法を定めるっていうことが結構多いじゃないですか。」

「貿易の交渉でもなかなかこれ(公平性)が実現しずらい空間ですよね。」

「だからこそ、公平性をどうやって実現するのかってことにカントは考えを巡らしたんですよね。」

「(核の拡散問題について、)核拡散防止条約(核不拡散条約)があって、核保有国を認めているわけですよ。」

「認めたうえで他の国は持っちゃいけないって言ってるわけですから強国の論理ですよね。」

「自分たちは特別扱いして他の国にはその権利を認めないと。」

「でも、あれは不拡散で拡散しないようにしろ。」

「で、最終的には核を無くしていくことを目的にしている法律ですから、いくら強国だからといって核を持つことは許されず、あらゆる国が核を無くしていくということがやっぱり公平だってことになりますよね。」

「カントが言ってるのは、そういった公平性の実現には時間がかかるかもしれないけども方向性だけは明確でしょと。」

「法の公平性を確保するためには公開性をちゃんと担保しなければいけない。」

「永遠平和はあくまでも努力目標みたいなもんなんですよね。」

「ただ努力目標も自分の目標とか利己心を抑えて実現するような努力目標ではなくて、この欲望・利己心をうまく活用する方法を考えて実現しようという努力目標なんですよ。」

「なので、人間が利己心に満ちて行動している中にも平和に向かって行くような要素が実は隠れているんですよ。」

「それをうまく活用すれば我々は少しでもいい世界に進めるんですよっていうのがカントの永遠平和のための提言かなというふうに思うんですね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

以下に私なりの解釈を交えて番組の内容を箇条書きで整理してみました。

・永遠平和は利己心を認めたうえで欲望・利己心をうまく活用する方法を考えて実現しようという努力目標であること

・永遠平和を達成するためには全ての国が無条件に納得出来る道徳をベースにした法律に従わなければならないこと(公法の状態であること)

・カントの言う道徳とは、誰もが行ってもいいと思えることをどんな場合でも行わなければならないという普遍的な法則であること

・こうした考え方、すなわち形式に注目するというのは公平性を確保すること

・従って、政治と道徳は一致しなければいけないこと

・邪悪な悪魔でも知性さえ備えていれば、法律を作り国家を作ることが出来ること

・法の公平性を確保するためには公開性を担保しなければいけないこと

・永遠平和にとって、国家と国家の法律において一番重要なのは強制力を行使するような機関がない中で各国に法律を守ってもらうことであること

・各国が法律を尊重するためには法律が公平なものでなければいけないこと

・公平性を実現する過程には終わりがないこと

 

さて、これまで4回にわたってカントの著作、『永遠平和のために』を通して戦争勃発リスクの対応策を考えてきました。

結局、私なりの解釈では“知性”こそが国の平和、あるいは国家間の平和をもたらすカギであるという結論に至りました。

カントは、『永遠平和のために』の中で以下のような刺激的な記述をしています。

・人間は邪悪な存在である

・人間の悪が平和の条件である

・邪悪な悪魔でも知性さえ備えていれば、法律を作り国家を作ることが出来る

 

“邪悪”、“悪”、あるいは“悪魔”はずる賢い象徴と位置付けているのです。

そのずる賢さを突き詰めていくと“知性”に昇華され、その知性を具体的なかたちにすると公平性や公開性といった条件を備えるルールや法律に展開されていくというわけです。

しかし、現実にはこうしたプロセスで国家間の平和を維持することはとても困難であることをカントは見抜いていたのです。

ですから、公平性を実現する過程には終わりがないというように、永久平和の実現に向けてのルールや法律の改定には終わりがないとクギを刺していたのです。

 

では一番肝心の“知性”を私たちが身に付けるためには何が最も必要なのでしょうか。

それは教育だと思います。

家庭でのしつけも教育の一環です。

あらゆる教育や経験を通して、“知性”は磨かれていくのです。

そして、“知性”を磨くことにおいて終わりはないのです。


 
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2016年11月18日
アイデアよもやま話 No.3551 クチコミが地価上昇の原動力に!

9月20日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でクチコミが地価上昇の原動力になっている状況について取り上げていたのでご紹介します。

 

9月20日、国土交通省が発表した都道府県の基準地価の中に意外な傾向が見えてきました。

全国の商業地の上昇率TOP10の中で、5つの地域で外国人観光客の増加が地価を押し上げていることが分かりました。

中でも番組が特に注目したのは、地価上昇率で7位にランクインした京都市伏見区深草稲荷御前町89です。

昨年の8.6%から今年は26.2%へと急上昇しているのです。

 

この地下急上昇には以外な理由がありました。

京都伏見稲荷大社には多くの外国人観光客が連日のように訪れているといいます。

その多くは、世界最大の旅行クチコミサイト、トリップアドバイザーのクチコミを見て伏見稲荷大社に来たといいます。

伏見稲荷大社はこのサイトで外国人に人気のスポットで3年連続1位を獲得しているのです。

 

伏見稲荷大社ではクチコミの意見を参考にし、案内板やQRコードなど外国人に分かり易い観光地づくりをしているといいます。

伏見稲荷大社の努力もあって、商店街にもその恩恵が広がっています。

一昨年から商店街では案内所を兼ねた手荷物の預かり所を開いていて、外国人観光客がひっきりなしだといいます。

更に、この商店街で買い物をして、その感想をツイッターに載せてくれるので、それを見た人がまた来てくれるといいます。

この商店街のある精肉店では、地元のお客さんのために5年前に始めた串焼きがクチコミの評判で今では外国人客の方が多いといいます。

こうしたことから、地元の不動産業者によると物件が足りない状況だといいます。

ゲストハウスやレンタル着物店にしたりとか、観光地になったことで大きなメリットがあるといいます。

 

このように外国人観光客に人気の伏見稲荷大社ですが、トリップアドバイザーでのクチコミの数は1万2000件あり、そのうち英語が6300件、日本語が2100件というように日本人より外国人観光客の方が利用者数が多いのです。

 

一方、都内で外国人観光客に人気のエリアはどこかというと、トリップアドバイザーによればルイ・ヴィドンやシャネルなど高級ブランドが立ち並ぶ銀座2丁目なのですが、インバウンドに一番人気なのはこうしたブランドショップではなくて文房具専門店「伊東屋」だといいます。

トリップアドバイザーの代表取締役、牧野 友衛さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「文房具の専門店自体が海外では珍しいということもあって、紙や和紙などのセレクションが非常に多いところが人気だと思っています。」

 

日本ならではの豊富な品揃えが人気の秘密と言えそうです。

ちなみに、地価上昇率で10位にランクインした銀座2−6−7の今年の地価上昇率は25.0%といいます。

 

また、地価上昇率で6位にランクインした銀座6―8−3の今年の地価上昇率は27.1%といいます。

ここでの人気スポットはユニクロです。

牧野さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「商品が豊富であったりとか、こういったサイズまで揃えてあるとか具体的な機能面に関したクチコミがあります。」

 

クチコミの数が毎年2倍近く増えているという銀座ですが、このクチコミをどう活用していくべきかについて、牧野さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「人が多く集まれば、それだけ地価に影響するということはあるのではないかと考えます。」

「インバウンド視点から見た観光の快適さは直接旅行者さんに聞くのが一番早いと思いますね。」

「そういう意味で、せっかくこれだけ書いてくれている情報があるのであれば、それを集客に活用することはいいと思います。」

 

番組の最後に、番組コメンテーターであるモルガン・スタンレーMUFG証券チーフエコノミストのロバート・A・フェルドマンさんは、訪日客のクチコミ効果は観光分野以外の企業など視野が広がることがポイントだと指摘しています。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

国内外には既にいろいろなクチコミサイトがあるようです。

そして、こうしたクチコミサイトには既存の広告宣伝媒体と決定的に違うメリットがあります。

それは、多少交通の便の悪い地方でも世界的にとても珍しい絶景であったり、そこでしか買えなかったり、あるいはそこでしか体験出来なかったり、というような場所は、たとえ最初はたった一人の旅行者が来てくれただけだとしても、今やいろいろなサイトを通して口コミにより世界的にその情報が拡散され、やがて世界中から多くの旅行客をその場所に呼び込むことにつながるのです。

 

ということで“観光立国”を目指す日本としては、以下のような対策が考えられると思います。

・製造業はどんなモノであれ“オンリーワン”商品づくりを目指すこと

・各地方自治体、あるいは国はこうした企業に対して、資金や交通の便の改善など様々な支援をすること

・旅行業者、あるいは各地方自治体は個々の企業の持つ“オンリーワン”商品、あるいは絶景地を点から線、あるいは面として国内外旅行者向けに情報発信すること

・携帯電話やスマホ向けアプリ開発業者は、出来るだけ多くの国に対応する自動通訳や自動翻訳サービスを提供すること

・ドコモやソフトバンク、AUなどの通信事業者は、国内どこでも携帯電話やスマホが安心して使えるような環境を整備すること

・宿泊業者は日本文化のエッセンスを取り入れたサービスを目指すこと

・国は民泊サービスの環境整備を実施すること

 

なお、こうした対策は、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックの時期に合わせた達成目標とすることがそれぞれの役割を持った人たちから“やる気”を引き出すことにとても貢献すると思います。


 
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2016年11月17日
アイデアよもやま話 No.3550 “STEM”が”理数脳”育成のキーポイント!

9月20日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で”理数脳”育成のキーポイント、“STEM”について取り上げていたのでご紹介します。

 

そもそも“STEM”という耳慣れない言葉ですが、それは教育に関する以下の4つの単語の頭文字を組み合わせたものなのです。

Science(科学)

Technology(技術)

Engineering(工学)

Mathematicis(数学)

 

需要が拡大する一方で、人材不足が予測されるエンジニアや研究者を育成しようと、今この“STEM”教育に企業も動き出しています。

9月20日、都内で開かれたおもちゃの表彰式は、ネット通販大手のアマゾン ジャパンが初めて開催した知育・学習玩具大賞です。

同じ大きさの木を積み重ねて好きなかたちを作る積み木「カプラ200」と世界の国旗を学ぶことが出来る「世界の国旗かるた」が対象に選ばれました。

アマゾン ジャパン おもちゃ&ホビー事業部の白子 雅也さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「理系教育を強化していこうという動きは欧米ではどんどん進んでいて、アマゾンにおいてもそれ以外の場所でも”STEM”はどんどん展開され浸透していくものと考えております。」

 

アメリカのアマゾンでは既に“STEM”関連の専用ページもあり、おもちゃに占める知育玩具の数は他国に比べおよそ2倍となっています。

ちなみに、アメリカのオバマ大統領は、次のように演説されております。

「未来を勝ち取る最初の一歩は技術革新をすることだ。」

「科学・技術・工学・数学の分野で新しい教師を10万人準備したい。」

 

アメリカではオバマ政権のもと、2011年頃より“STEM”教育を積極的に推奨、2016年度予算では“STEM”関連に約41億ドルを投じています。

また、惜しくも落選しましたが、今回のアメリカ大統領選候補のクリントンさんも公約に掲げておりました。

しかし、日本では未就学児を持つ親の70%以上が知育や学習玩具に関心があるものの、購入頻度が低い人が大多数というのが現状です。

白子さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「親御さんの目線からご覧になった時に、学術的な裏付けがあった方が安心なんですけど、あまり専門的なことを言われてもよく訳が分からない、自分の子どもにとって良いのかが分からないという意見もありました。」

 

そこで今回、教育や脳科学の専門家を審査員として招き、数十万点あるという“STEM”関連のおもちゃから8つを受賞商品として選びました。

では、受賞したおもちゃはどんな効果が期待出来るのでしょうか。

小さなブロック、「アソブロック」は一つ一つ組み合わせ、関節のように回転させたり、自由に動かせるのが特徴です。

 

東京大学大学院教育研究所の秋田 喜代美教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「上から見たり、いろいろな見方をするうちに、いろいろなものに見えてきたりして、想像力を豊かに刺激することが出来るのが一つの特徴だと思いました。」

 

一方、パーツを差し込みサボテンのようなオブジェを作り上げる「サボテンバランスゲーム」について、東京大学大学院薬学系研究科の池谷 裕二教授は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「予想とそれに対する手段を考えて解決することが必ず必要なんです。」

「日常生活で自分を外から眺めたらどういうふうに見えるんだろうかとか、あるいはこの問題の裏側には何があるんだろうとか、大人になる過程の重要な一つの要素を育むことが出来ると考えています。」

 

崩れないようにバランスを考えながら積み上げる動作が脳の成長につながるといいます。

 

また、芋虫型のプログラミングロボ、「コード・A・ピラー」は直進や曲がるなど指示が記録された胴体をつなぐことで3歳からプログラミングの基礎を学べるといいます。

 

アマゾンではこうした授賞式の他、9月20日から知育・学習玩具専門サイトを開設し、目的に合わせ、商品を選び易くしました。

白子さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「アマゾンらしい、いかに品揃えが広いですよだけではなくて、新しいもの、より最先端のものも探してすぐ見つけていただける、楽しく遊んでくれるだけではなくて、そこから学んで欲しいとか、もっとこういうことが出来るようになって欲しいっていう、そういうのが具体的になってきているので、そこにあった商品はまだまだニーズが高まってくると思います。」

 

番組の最後に、番組コメンテーターであるモルガン・スタンレーMUFG証券チーフエコノミストのロバート・A・フェルドマンさんは次のようにおっしゃっています。

「(“STEM”という理数系に強い子どもを育てるために民間企業は動き出しているが、政府が後押しすることがあれば何があるかという問いに対して、)やっぱり予算だと思いますけど、この問題は日本経済の持続性がかかっている一つの問題ではないかと思いますね。」

「生産性を上げないといけないですね。」

「理数系の人たちを増やしてようやくイノベーションが増えて、新しい商品を作って輸出も出来てようやく持続性のある医療制度、年金制度になるんですけども、今の状況を見るとちょっと怖いですよ。」

「OECDの数字を使いますけれども、公的教育費(対GDP比率)ランキングで日本は(3.5%で)35位とほぼビリです。」

「では教育費を増やそうとするとどこかを削らないといけないということですから、やっぱり決めないといけないと思います。」

「ただ、やったら本当に効果が出るということだと思います。」

「“ゆとり教育”を止めましたよね。」

「で、最近の若い人は英語力が上がっています。」

「これはやっぱり良かったということを意味すると思いますけど、とにかく理数系の教育を増やそうということが持続性の一つのポイントだと思います。」

「(日本経済を支えるためにもそこの予算を付けるべき)だと思いますね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

日本は少子高齢化先進国です。

ですから、年金制度や健康保険制度を健全な状態で持続させるためには、こうした制度を支える側の若い世代がこれまで以上に税金などを納められるように能力やスキルを高めて産業力を高めていくことが求められます。

そうした中で、OECDの公的教育費(対GDP比率)ランキングで日本はほぼ最下位という状況はこうした制度を維持していくうえでとても危ういと言えます。

更に、政府はこうした課題に対して斬新な対応策を打ち出すというよりも、現状の枠の中で対応するというのが基本方針のようです。

 

これまで何度となくお伝えしてきたように、現在はAI(人工知能)、IoT(Internet Of Things)、ロボット、あるいは再生医療など様々な分野でテクノロジーが急速に発展しつつあります。

そして、こうしたテクノロジーは新たな雇用を創出し、新たな商品やサービスの提供により私たちの暮らしをより豊かにしてくれます。

そして、こうした基盤は“STEM”の強化なのです。

ですから、高齢者対策を重視するだけでなく、子どもへの公的教育費に対してももっと目を向けていただきたいと思います。

今後増々高齢化社会が進み、一方で特別な教育関連対策がなされないまま少子化が進めば、日本の年金制度や健康保険制度が破たんすることは明らかなのです。


 
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2016年11月16日
アイデアよもやま話 No.3549 無重力体験ビジネスで夢の宇宙旅行に向けて一歩前進!

9月18日(日)放送のニュース(NHK総合テレビ)で無重力の体験ビジネスについて取り上げていたのでご紹介します。

 

9月18日、名古屋市のベンチャー企業が一般の人を対象にした、無重力が体験出来る新たなサービスを行いました。

宇宙旅行の事前訓練という小型ジェット機を使ったこのサービスに4人が参加しました。

中には大手旅行代理店の社員、国松 健治さん(39歳)もいました。

肩書は社内で唯一の「宇宙事業担当」です。

国松さんは宇宙旅行の事業化に向けて何が出来るか検討しています。

子どもの頃からあこがれていた宇宙を知るためおよそ95万円の参加費は自費で支払いました。

更に、訓練用の服も手作りで準備しました。

 

無重力を体験するため小型ジェット機で日本海の上空に飛び立ち、高度6500m付近から一気に上昇させ、途中でエンジンの出力を最小限に絞ります。

すると、放物線を描くように下降していく小型ジェット機の内部はおよそ20秒間無重力状態になります。

この日は、この無重力体験を7回体験しました。

国松さんはこの体験について番組の中で以下のように感想をおっしゃっています。

「私の体が無事に浮きまして自分で制御出来ないので、正直世界が変わった感がありましてですね、とにかくこれは体験しないと分からないなというのが非常に感じました。」

 

今回のような宇宙分野への民間企業の参入、アメリカでは宇宙関連機器の市場規模がこの10年間で1.4倍あまりに拡大し、約5兆円に達しています。

一方、日本ではこの1年、市場規模がほとんど伸びていません。

政府は民間企業の参入を積極的に支援し、今後10年間で市場規模を現在の2倍にする目標を掲げています。

 

今回企画したベンチャー企業、PDエアロスペースが目指すのは宇宙空間まで数十万円で乗ることが出来る新たな宇宙輸送機の開発です。

社長の緒川 修治さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「小さなことでもスタートさせることでいつか追いつくことが出来る可能性がありますので、とにかく始めることが大事だと思います。」

「宇宙旅行に向かってほんの少し一歩踏み出せたかなというふうに思っています。」

「一番は価格を下げたいんですね。」

「定期的に我々宇宙旅行に行くまでにどんどん繰り返していきたいと思っています。」

 

なお、無重力体験の前日に参加者は宇宙飛行に臨んで問題ないか健康状態を調べました。

内閣府によると、こうした医学検査と組み合わせたビジネスは国内では初めてではないかといいます。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

誰しも一生に一度は宇宙旅行を体験してみたいと思っているはずです。

また、より多くの人たちが宇宙空間から青い地球を観ることによって、これまで多くの宇宙飛行士が地球への愛おしさを感じたのと同じ想いを体験することが出来ます。

その想いがきっと地球環境に対する優しい想い、あるいは国際平和の大切さへとつながっていくと期待出来ます。

同時に、宇宙関連ビジネスは経済の新たなフロンティアと言えます。

ですから、経済活性化の新たな起爆剤となる可能性も秘めています。

 

ということで、PDエアロスペースのような宇宙旅行サービスに携わっている企業には、出来るだけ早く安全で低料金の宇宙旅行サービスを実現していただきたいと思います。


 
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2016年11月15日
アイデアよもやま話 No.3548 画期的な届かない汚れを落とす洗剤!

手洗いでの食器洗いと言えば、スポンジと洗剤を使うのが当たり前と私たちは思っています。

そうした中、9月8日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で画期的な届かない汚れを落とす洗剤について取り上げていたのでご紹介します。

 

今までスポンジが届かなくて洗えなかったような食器の汚れを洗える洗剤が生まれました。

それはスプレータイプの食器用洗剤です。

使い方は、汚れを落としたい部分にシュッと吹きかけます。

そして、1分ほど置いた後に水ですすぐだけです。

こする必要はないということですが、実際に番組で油で汚れた擦りおろし器で試したところ、すぐに汚れが浮いてきて水ですすぐと汚れがきれいに取れました。

 

これまでは洗剤にこする力が加わることで汚れが落ちていたのですが、このスプレータイプ用洗剤には特殊な界面活性剤が配合されていて、泡全体が急速に浸透して汚れそのものを壊すといいます。

例えば、急須(きゅうす)の先の部分だとか赤ちゃん用マグカップに付いているストローなど、泡が入り込める場所があればどこでも洗えるといいます。

 

このようにかなり便利なのですが、なぜ今まで開発出来なかったのかについて、開発した花王の小出 敏治さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「食器用洗剤は物理力と洗剤の力を合わせるというのが今までの技術の限界というところだったんですね。」

「そこで、それをスポンジを使わずにきれいに出来る、これがなかなか難しいハードルでして・・・」

 

なお、開発には9年もかかったというこのスプレータイプの食器用洗剤、商品名「キュキュットCLEAR泡スプレー」は既に10月1日より300円前後で販売されております。

ちなみに、汚れを落とすのにつけ置き洗いをする場合がありますが、つけ置き洗いは漂白とか除菌は出来るのですが汚れを完全に取るところまでは出来ないといいます。

 

ということで、普通のお皿などを洗う場合は普通の洗剤とスポンジを使い、ちょっと込み入った形状の洗い物をする場合は「キュキュットCLEAR泡スプレー」を使うという使い分けがお勧めのようです。


 
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2016年11月14日
アイデアよもやま話 No.3547 ポケモンGOの引きこもり対策としての活用!

9月8日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でポケモンGOの引きこもり対策としての活用について取り上げていたのでご紹介します。

 

9月8日、菅官房長官はスマホ向けゲーム、ポケモンGOの引きこもり対策としての活用を検討する考えを示しました。

海外ではポケモンGOが外出のきっかけとなる事例が報告されているとしたうえで、こうした先端技術の活用も今後見極める必要があるとしています。

内閣府の調査では、仕事や学校に行かず、自宅に閉じこもる「引きこもり」の人(15〜39歳)の数は推計でおよそ54万人に上ります。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

ポケモンGOには、自動車の運転中にポケモンGOを操作していたことによる衝突事故発生事件が後を絶ちません。

そして、ようやくポケモンGOの提供企業もその対策に乗り出しました。

ポケモンGOにはこのような弊害もありますが、一方で今回ご紹介したように「引きこもり」対策としての活用もあるのです。

是非、こうした対策により少しでも多くの「引きこもり」の人たちが外出出来るようになって欲しいと思います。


 
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2016年11月13日
No.3546 ちょっと一休み その568 『アメリカ大統領選の結果から見えてくること』

世界をリードする超大国、アメリカの大統領選が11月8日に行われました。

直前の予想では民主党のクリントン候補と共和党のトランプ候補は大接戦でしたが、9日には多くの予想に反して279対218でトランプ候補が勝利し、次期アメリカ大統領に就任することが決まりました。

今回は、いくつかの報道記事をベースに、アメリカ大統領選の結果から見えてくることについてお伝えします。

 

トランプさんは選挙期間中に女性蔑視の暴言などいろいろと過激な内容の発言をされていました。

そうした言動に対して、実際にトランプさんが大統領就任後にアメリカをどのような方向へと導こうとしているのか、あるいは国際社会の中でアメリカはどのような立ち位置で、どのように貢献していこうとしているのか、専門家も含めて多くの人たちはその真意を測りかねている状態です。

それを象徴しているのが9日の世界の金融市場の「トランプ・ショック」と言われる大揺れでした。

日本の東京株式市場も日経平均株価は前日からの下げ幅が一時1000円を超えるという大幅な下落でした。

しかし、アメリカのダウ平均株価はトランプさんが勝利してから2日続けて200ドルを超える大幅な上昇となり、およそ3ヵ月ぶりに最高値を更新しました。

また10日の東京株式市場の日経平均株価も前日から一転、上げ幅は今年最大の1000円を超えるという大幅高で終わりました。

トランプさんが当選後の勝利宣言で過激な発言を控え、自国の経済成長や他国との協調に取り組む姿勢を見せたことで、過激な「トランプ・リスク」が和らぎ、投資家心理が改善したと見られています。

 

さて、選挙で選ばれる公職か軍幹部のいずれの経験もない「アウトサイダー」が大統領選に勝利するのはアメリカ史上初めてといいます。

トランプさんは、「アメリカファースト(アメリカ第一主義)」の立場から外交、内政を抜本的に見直すとしていますが、公約には現実を度外視したものが多く、外交、経済が世界的に混乱しかねないとの懸念が広がっています。

 

では、なぜ実業家で公職経験ゼロのトランプさんが政治家としての経験が豊富なクリントン前国務長官に勝利出来たのでしょうか。

一言で言えば、アメリカの現状に不満を抱く白人中間層や無党派層が多かったということに尽きるのではないかと思います。

ニューヨークタイムズやワシントン・ポストなどアメリカの大手各紙はクリントン支持を明確しており、トランプ批判が激しかったし、クリントン候補の選挙資金は4200万ドル以上とトランプ候補の約32倍以上だったにも係わらずこのような結果に終わったからです。

それだけ多くの有権者の不満が大きかったということが言えます。

 

さて、11月9日(水)放送の「時論公論」(NHK総合テレビ)でも早速「“トランプ勝利”の衝撃」をテーマに取り上げていました。

番組の中で、アメリカ担当の解説委員、高橋 祐介さんは、今回の選挙結果について番組の中で次のようにおっしゃっています。

「この1年あまりトランプ氏は過激な発言をたたかれながらも、現状への不満、そして将来への不安をスポンジのように吸収してここまで大きくなってきました。」

「今アメリカ国民の間に漂っている閉そく感、そこに一向に反応してくれない既存の政治に対する憤りの大きさ、それをまざまざと見せつけたかたちだと思います。」

「それがこれからどのようなかたちになっていくのか、あるいはいかないのかそこに注目したいと思います。」

 

「(トランプ候補の勝ちぶりについて、)かなりの接戦になるとは予想していましたけども、一つ意外だったのはトランプ候補が強い勝ち方をしたことですね。」

「アメリカ大統領選挙は州ごとに割り振られた選挙民の数を争う仕組みですけども、その選挙民では勿論一般の得票総数でもクリントン候補を大きく上回りました。」

「ではそうした予想外の得票はどこから生じたのかといえば、今回トランプ候補は民主党が強いはずの中西部のウィスコンシン州を共和党にひっくり返して、最後は民主党がフィラデルフィアで党大会まで開いて死守しようとしていたペンシルベニア州を奪って最後に止めを刺して当選を決めました。」

「で、共和党大会が開かれた中西部、この一帯はラストベルト(Rust Belt)、さび付いた工業地帯と言われるところですね。」

「かつて製造業が安い外国製品に押されて衰退してきたという地域です。」

「そこの白人労働者層、そこの中には自らの職を奪う自由貿易に対する反発心ですとか、排外的な機運もくすぶっていたんです。」

「共和党はもともと自由貿易は推進すべきだという立場です。」

「しかし、トランプ氏はその共和党の大統領候補でありながら、そうした地域にこれまで投票に行かなかった白人労働者層を新たに掘り起こしたかたち、これは事前によく言われていた“隠れトランプ票”、これをこんなに沢山掘り起こしたということなんです。」

 

「(白人労働者層を掘り起こした大きな力は、アメリカにどういう変化があったからなのかについて、)同じ白人労働者層ですけども、その怒りがなぜ生じたのか、そこには(アメリカ国内で)年々広がる格差の拡大と固定化という問題があったんだと思います。」

「アメリカは基本的に格差の国と言われてきました。」

「その自由で公正な結果であれば、お金持ちがいて貧しい人がいることは仕方のないことだと言われてきましたけれども、頑張って報われれば上(の階層)に行ける、これがアメリカンドリームだったわけですね。」

「しかし、近年はどうやっても追いつかないほど富裕層と中間所得層、あるいは低所得層との間の格差が広がりつつあります。」

「トップ1%がアメリカの富のおよそ3割を占めて、トップ10%が7割を占めているという状況になっています。」

「その結果、中間所得層は上に行けないばかりか、下に転落してしまうというケースが増えています。」

「アメリカを支えてきた分厚い中間層がだんだん細って全体の50%を切っているんですね。」

 

「(そうした中で、トランプ氏がこういう勝利をつかんだ決め手について、)転落を恐れる中間層には既存の政治は自分たちには何もしてくれなかったという潜在的な不満と怒りがありました。」

「そして、共和党は一握りの富裕層のことばかり考えている、民主党のオバマ政権も自分たちの職を奪いかねない不法移民に甘い対応をしていると。」

「また、アメリカでは年々ヒスパニック系が増えて、今や最大のマイノリティになって白人は近い将来少数派に転落する危機感があります。」

「ここにトランプ氏は付け込んだというわけです。」

 

「(トランプ氏が有権者の心をつかんだそのスタイルは政治家でないという点も効果があったように見受けられたことについて、)いわゆる不動産王といわれるトランプ氏はビジネス界出身だけあって、誰を顧客にターゲットするかというマーケティングに優れていたと言われているんですね。」

「しかも、売り込み方も非常にうまいんです。」

「ふだんの演説なんかでも絶対に難しい言葉を使いません。」

「長年テレビタレントとして活躍してきた経験がメディアの使い方がうまいというふうに言われています。」

「アメリカの選挙には空中戦と地上戦があると言われます。」

「空中戦といいますのはテレビですとかインターネットなどのメディアを使った選挙広告ですとかキャンペーンのこと。」

「地上戦とはスタッフを動員した個別訪問などの集票活動のことですけども、トランプ氏は今回の選挙戦で地上戦をほとんどやらなかったんですね。」

「空中戦でも非常にお金のかかる選挙チームなどは従来の候補に比べると少なかったんです。」

「で、クリントン候補がその持ち前の資金力、そして組織力を生かして大量のCMを流したり、あるいは大掛かりな地上戦を展開してきたというのとは非常に対照的でした。」

「その代わり、トランプ氏は過激な発言をすることによってメディアの注目をこちらに集めてきたわけですね。」

「お金のかからない効率的な選挙戦術を駆使して、まさかの大逆転劇を果たした、こういうわけだと思います。」

 

「(逆にクリントン候補は本命中の本命と見られてきたのに破れてしまった原因について、)トランプ候補が何かを変えてくれるというイメージをうまく演出したのに対して、クリントン候補はオバマ政権のレガシーを引き継ぐと訴えたことからも分かるように、有権者の間に何かを変えてくれるかも知れないという期待感を持たせることに失敗したんだと思います。」

「ファーストレディ、上院議員、国務長官と長年ワシントン政治の中枢にあったことも豊かな経験と実績と評価する人もいますけども、その反面予備選の段階で苦戦を強いられたバーニーサンダース上院議員ですとか、今回のトランプ氏のような既成の政治に対する反発、反エスタブリッシュの風の前にはマイナスに映ってしまったということなんでしょう。」

「2期8年のオバマ政権の後に更に民主党政権が続くことに対する“民主党疲れ”というような指摘をする声もあります。」

「トランプ氏がふだん投票に行かない人にも共和党支持層を広げたのに対して、クリントン氏は民主党が本来期待していたヒスパニックなどのいわゆるマイノリティ票、そして女性票など異文化連合といわれる支持基盤のうち特に黒人、そして若者に対する呼びかけの結果の投票率が低かったという見方があります。」

 

「(クリントン候補にはアメリカ初の女性大統領というタイトルの期待もあったことについて、)確かにアメリカ初の女性大統領という歴史的な期待もあったはずなんですけども、若者層の間には男女平等なんて今や当たり前だというふうに映ってあまりアピールしなかったということなんじゃないでしょうか。」

「1980年以降に生まれたいわゆるミレニアム世代、そうした若者層はリベラルで民主党を支持する傾向は強いんですけども、そこをうまく投票所に行ってもらうことが出来なかった、これが最大の敗因だと思います。」

 

「(番組の最後に、個々の政策を離れて自らの進路についてアメリカを再び偉大にするというトランプ氏のやり方は格差や分断を逆に広げてしまうのではいう心配について、)確かにアメリカ社会の分断を押し広げる心配はあると思います。」

「ただトランプ政権のリスクの本質は何かと考えますと、それは今の仕組みを一旦壊して今までのやり方を止めたと、そうしたところでその先に何があるのか分からない、もしかしたら何もないのかもしれない、何もしないのかもしれない、無策になることがあるかもしれません。」

「ただ、これまでの歴代の大統領も選挙期間中の発言やスローガンと就任後の実際の政権運営が全く別な話っていうのはよくあることでしたよね。」

「ですから、今日のトランプ氏の演説が非常に大統領然としていたという声がありますけども、実際民主党陣営との融和に重きを置いてクリントン氏の健闘を讃えて見せるまでの余裕もありました。」

「トランプ氏がいったいどういう大統領になるのか、ここはやはり慎重に時間をかけて見極めていく、そこが肝要なんじゃないでしょうか。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

不動産業で大成功を収めてきたトランプさんは、アメリカの国益を最優先する「アメリカファースト」を掲げ、政治経験はゼロでも企業家としてのこれまでの豊富な経験を生かして、こうした現状を打破してくれるのではないかという期待を寄せる多くのアメリカ国民の心をつかんだと言えます。

しかし、一方でトランプさんは、選挙期間中にアメリカ大統領として相応しくない数々の言動が取りざたされてきました。

それでも大統領選に勝利したのです。

 

ここで、あらためてトランプさんが今回の大統領選で勝利を収めた背景、および理由について以下に箇条書きでまとめてみました。

・アメリカは基本的に格差の国と言われてきた

・一方で、かつては頑張って報われれば富裕層にもなれるという“アメリカンドリーム”が健在だった

・しかし、経済のグローバル化、および移民の増加により年々広がる格差の拡大と固定化をアメリカ社会にもたらした

  近年はどうやっても追いつかないほど富裕層と中間所得層、あるいは低所得層との間の格差が広がりつつある

  トップ1%がアメリカの富のおよそ3割を占めて、トップ10%が7割を占めているその結果、中間所得層は上に行けないばかりか、下に転落してしまうというケースが増えている

アメリカを支えてきた分厚い中間層がだんだん細って全体の50%を切っている

・トランプ候補は、これまでの共和党と民主党の政策の枠を取り払い、多くの有権者が本当に困っている問題に焦点を当てて解決策を提示した

  共和党はもともと自由貿易は推進すべきだという立場である

トランプさんはその共和党の大統領候補でありながら、これまで投票に行かなかった白人労働者層を新たに掘り起こした(“隠れトランプ票”)

共和党は一握りの富裕層のことばかり考えており、民主党のオバマ政権も自分たちの職を奪いかねない不法移民に甘い対応をしている

また、アメリカでは年々ヒスパニック系が増えて、今や最大のマイノリティになって白人は近い将来少数派に転落する危機感がある

・トランプ候補は、以下のような選挙戦術を駆使した

何かを変えてくれるというイメージをうまく演出

マスコミを最大限に利用したお金のかからない効率的な選挙運動

  長年テレビタレントとして活躍してきた経験を生かした、過激な発言によるメディアの活用

ターゲットを絞った優れたマーケティング手法の活用

分かり易い言葉での演説

 

一方、トランプ政権には以下のようなリスクが指摘されております。

・アメリカ社会の分断を押し広げる心配があること

・今の仕組みを一旦壊して今までのやり方を止めたが、その先に何があるのか分からないこと

 

ここで思い出されるのは、以前プロジェクト管理と日常生活 No.460 『カントの著作に見る戦争勃発のリスク対応策 その1 人間は邪悪な存在である!』、およびプロジェクト管理と日常生活 No.462 『カントの著作に見る戦争勃発のリスク対応策 その3 人間の悪が平和の条件!?』でご紹介した、人間は邪悪な存在であり、国家も人間と同じように利己的であるが、一方で悪魔たちであっても知性さえ備えていれば国家を樹立出来るというカントの言葉です。

 

アメリカに限らず、誰が国家の指導者になろうとも、またその指導者が邪悪な心の持ち主であっても知性を持って冷静に、そして合理的に考えれば自ずと国家の進むべき方向性は見えてくるのです。

しかし、その合理的というのが曲者です。

合理的といっても短期的、中期的、あるいは長期的な視点によって方向性は異なる場合があるのです。

そして、一般的に多くの人たちは短期的なメリットを求める傾向があります。

今回のアメリカ大統領選の結果から見えてくることは、トランプ候補の主張がクリントン候補の主張に比べてより多くの有権者の考える短期的な合理性に応えたということです。

アメリカという国の大統領のレベルはまさしくアメリカの有権者のレベルを反映したものと言えるのです。

 

幸いにして、トランプさんにはこれまでの一国の指導者として相応しくない暴言や行動はあるものの、不動産業で大成功を収めてきた事業家なので、トランプさんには過去の政治のやり方や考え方に囚われることなく、損得勘定には厳しく合理的な精神の持ち主という側面もあります。

ですから、トランプさんには事業家としての長年の経験を最大限に生かして、経済、外交などの面で「アメリカファースト」を掲げながらも国際的な視点で共存共栄を図っていく方向でアメリカの次期大統領としての職務を全うしていただきたいと思います。

 

それにしても、もしトランプさんの選挙期間中の数々の好ましくない言動はあくまでも選挙に勝利するための手段であり、トランプさんは本来実業家としてだけではなく政治家としても素晴らしい資質を兼ね備えており、多くの有権者は数々の暴言の陰に隠されたトランプさんの本質を見極めてトランプさんに1票を投じていたとしたら、トランプさんとアメリカの多くの有権者には脱帽です。

でも、どのような結果がもたらされるかは遅くとも来年中には明らかになると思います。

そして、その結果は、良くも悪くも日本を含め世界的に大きな影響を与えることになるのです。

また、今アメリカが抱えている格差問題は世界共通の社会的な大問題です。

ですから、アメリカがこの大問題にどのような対策を打ち出すのか、そしてその成果については世界中の注目を集めます。

もし、トランプ政権が期待外れで格差問題を解決出来ず、このまま格差が広がり続ければ、いずれ格差の底辺にいる人たちによる革命が起きる可能性が大きくなります。

そして、その革命は世界中に飛び火することは明らかです。

なので、世界各国は次期アメリカ大統領であるトランプさんの今後の動向を無視することは出来ないのです。


 
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2016年11月12日
プロジェクト管理と日常生活 No.462 『カントの著作に見る戦争勃発のリスク対応策 その3 人間の悪が平和の条件!?』

多くの人々が平和を願っている一方で、常に世界中のどこかで紛争や戦争が絶えず起きています。

そこで、プロジェクト管理と日常生活 No.459 『国家間のより強い依存関係こそ戦争勃発の最適なリスク対応策』ではプロジェクト管理の考え方に沿って、国家間のより強い依存関係の構築こそが平和維持にとってとても重要であるとお伝えしました。

そうした中、8月1日(月)から4回にわたり放送された「100分de名著」(NHK Eテレ東京)で「カント “永遠平和のために”」をテーマに取り上げていたので戦争勃発のリスク対応策の観点から4回にわたってご紹介します。

3回目は、人間の悪が平和の条件であることについてです。

なお、番組の講師は哲学者で津田塾大学教授の萱野 稔人さんでした。

 

18世紀のヨーロッパを代表するドイツの哲学者、イマヌエル・カント(1724-1804)はその著書、『永遠平和のために』(1795年刊行)の中で永久に戦争の起こらない世界をどうしたら導くことが出来るのかを追求しました。

カントは人間を放っておいたら戦争をしてしまう邪悪な存在であると考えました。

しかし、カントは『永遠平和のために』の中で、邪悪な人間だからこそ恒久平和を導くことが出来ると説いたのです。

 

カントの哲学的なものの見方について、萱野さんは次のようにおっしゃっています。

「そこ(カントの哲学的なものの見方)で出てくるのが人間の本性という言葉であって、更に自然の摂理という言葉が出てくるんですけれども、哲学でよく言われるんですけども、自然の摂理は英語でいうとNatureなんですよ。」

「で、自然の摂理と言った時もNatureなんですよ。」

「要は、人間が元々持っている自然的な傾向、例えばお腹いっぱい食べたいとか、優しくされた人には好きになったりとか、これと自然の中でクマがサケを食べるとか、あるいは寒くなれば水が氷ったりとか、そういった全ての自然の動きの中に人間の自然的傾向を当てはめて考えるということなんですよ。」

「カントが一番注目するのは、そこの部分なんですね、人間は、邪悪であると。」

「人間は放っておけば争いをするし、戦争まで発展するかも知れない、というところから出発しましょうと。」

「そこを直視して永久平和の問題を考えていきましょうということなんですよ。」

 

カントは、『永遠平和のために』の中で自然の摂理として次の3つを挙げています。

1.自然は人間があらゆる地方で生活出来るように配慮した

2.自然は戦争によって人間を人も住めないような場所に居住させた

3.戦争によって人間が法的な状況に入らざるを得ないようにした

 

そもそも人間は邪悪であり、自然状態では戦争をしがちです。

しかし戦争が起こり、敵対する集団が現れると味方同士は団結せざるを得なくなります。

そのため何らかのルールや法律が必要になり、結果として平和状態が生み出されます。

つまり、カントは邪悪な人間同士が起こした戦争が平和を作り出すことも自然の摂理だというのです。

カントは、『永遠平和のために』の中で次のように記しています。

「永遠平和を保証するのは偉大な芸術家である自然、すなわち<緒物を巧みに創造する自然>である。自然の機械的な流れからは人間の意志に反してでも人間の不和を通じて融和を創り出そうとする自然の目的がはっきりと示されるのである。」

 

さて、上記の自然の摂理の3つ目について、萱野さんは次のように解説されております。

「戦争で誰かが自分たちの生活を脅かすかもしれない。」

「その時に人間が取り得る行動としては、それもまた利己心からですが自分たちの生活を守りたいという、そこから法的な状態に入りますよね。」

「例えば、ある命令のもとで防衛行動を取りましょうとか、そういったことが出てきますよね。」

「頭ごなしに国家の状態が素晴らしいから国家の状態を作れと言っても、人間はそんなことで動くわけではないけれども、他の集団から自分たちの生活が侵害されることに直面すると、いくら邪悪な人間でもその邪悪さゆえに国家状態を作りますよねということなんですね。」

「(平和になるには戦争が必要であるとも聞こえるが、という問いに対して、)この部分は確かに誤解され易いんですよ。」

「戦争があるからこそ平和が達成されるんだって言っているように見えるじゃないですか。」

「そういうふうに読んじゃうと、積極的に戦争した方がいいんじゃないかっていう議論まで導き出されてしまいますよ。」

「カントは必ずしもそう言っているわけではないんですよ。」

「2つポイントがあって、一つはそもそも人間が争い事をしなければ、平和を構築しましょうと人間は思いませんよねと。」

「戦争をするという傾向があるから平和への志向性というか、平和への意識も高まってくるんだっていうことなんですよね。」

「もう一つは、カントは道徳だとか理性の導きだけでは平和は作られないと考えたんですよ。」

「何らかの人間の本性、自然的な傾向に裏打ちされなければ平和は達成されないだろうと。」

「理想的に人々は仲良くしましょうとかと言っているだけでは平和は達成されなくて、そうすることが人間の本性にとってもプラスだから戦争を止めて平和に向かうんだと証明しなければ、いくら理性的なことで平和について説いてもそれは絵空事なってしまうだろうと。」

「ですので、人間の本性が邪悪だと認めましょうと。」

「でもそれがうまく理性によってその傾向を活用すれば、平和は導かれるんだと。」

「カントの哲学の一つのポイントなんですけど、何らかのこういった人間の本性による裏付けがなければいくら理性や道徳できれいごとを言っても(平和は)実現しないっていうことなんですよね。」

 

次は国家間の平和についてです。 

カントは、『永遠平和のために』の中で次のように記しています。

「悪魔たちであっても知性さえ備えていれば国家を樹立出来るのだ。」

 

カントは、自然の摂理によってルールを作り、平和な国家を導くことが出来ると説いたのです。

カントは、国家も人間と同じように利己的であると考えます。

そのため国家は自国の利益を獲得しようと他国と貿易を始めます。

そして、出来るだけ自国が他国よりも多くの利益を得ようとします。

すると、結局は他国と仲良くしておいた方が得だから戦争はいない方がいいという方向に努力するはずだと説いたのです。

 

例えば今、中国とアメリカが戦争を始めたらどうなるでしょうか。

アメリカで売られている商品の多くは中国で作られています。

そのため、戦争が始まって中国製品の輸入がストップすると全米のスーパーマーケットから多くの商品が消えてしまいます。

一方、中国も最大の輸出相手国を失うことになり、経済的に大きな損失を被ります。

このように戦争はどちらの国にとっても利益をもたらしません。

戦争するよりも貿易のルールを決めて利益を上げる方がお互いに得をします。

経済的交流は戦争を抑止することが出来るとカントは考えました。

 

カントは、『永遠平和のために』の中で次のように記しています。

「他方ではまた自然は互いの利己心を通じて諸民族を結合させているのであり、これなしで世界市民法の概念だけでは民族の間の暴力と戦争を防止することは出来なかっただろう。これが商業の精神であり、これは戦争とは両立出来ないものであり、遅かれ早かれ全ての民族はこの精神に支配されるようになるのである。」

 

これについて、萱野さんは次のように解説されております。

「人間は自分の得になることをしたいんだと。」

「いろんな利己心を持っています。」

「それぞれの国家もやっぱり利己的なんですよ。」

「自分たちの国を繁栄させたいという自然的傾向を持つわけですよね。」

「その時に2つのベクトルがあるんですよね。」

「暴力(収奪)と非暴力(法・商業活動)のどちらに転ぶか分からない。」

「それがどうやって利己心を満たしながら他国と戦争を起こさないようにするかといった時に注目したのが商業。」

「カントの時代も列強があらゆる国を植民地化していた時代ですよ。」

「カントがここで商業と言っている言葉の中には植民地化をどう否定するかっていうことも入っているんですよ。」

「商業っていうのはお互いに自由に貿易することですよね。」

「で、継続的にお互いが自分たちの得意分野の中で生産しながら欲しいモノを交換するっていうのが商業。」

「で、植民地支配っていうのはそれを武力で獲得しようというものですよね。」

「これって歴史を見ても、利益よりも宗主国が植民地を維持するために支払うコストの方が高くついちゃったんですよね。」

「だから、結局20世紀半ばにほとんどの植民地は独立したというかたち。」

「で、これ更に言うと短期と長期の違いでもあるんですよ。」

「短期的に利益を拡大しようとすれば、力による利益の確保というのが手っ取り早いんですよね。」

「例えばですね、あそこの国で沢山銅が採れる。」

「で、短期的にはそこを攻めていって滅ぼしちゃえばその銅を採れるかもしれませんけども、長期的に銅を産出してくれる人がいなくなってしまうわけですよね。」

「だから時間軸を長く伸ばせば攻めることが必ずしもいいというふうにはならない。」

「来年も再来年もずっと引き続きお互いに利益を拡大して自分たちも豊かになりましょうっていうことであれば、商業活動ということになりますし、あるいは法に則って人々がいろんな活動する方がいいだろうっていう話になるということで、どっちがよく考えたら得なんですかっていうことなんですね。」

「短期的な得なのか長期的な得なのかによって、判断が変わってくるじゃないですか。」

「人間てやっぱり短期的に物事を考え易いっていう傾向があるんですよ。」

「目の前の得だけを望んでしまうという。」

「でも少し経験を積んだり知性を働かせたりすれば、利益はすぐには手に入らないけど長期的に見れば利益が最大化するような方向に向かっていきますよね。」

「そこに人間の知性や理性を働かせましょうよということなんですよね。」

「戦争をしないで問題を解決することがそれぞれにとって得になるような環境整備をどうしていくかっていうことがここから導きさされますよね。」

 

では、どのような国家ならば平和が実現出来るのでしょうか。

世の中にはいろいろな政治体制がありますが、カントは永遠平和を実現するためには共和的な体制の国家でなければならないと考えています。

共和的な体制というのは今の日本や欧米諸国のような国民が主権を持つ民主主義国家のことを指します。

しかし、共和制であればいいってことでもないとも考えています。

カントは、『永遠平和のために』の中で次のように記しています。

「共和政体とは行政権が立法権と分離されている国家原理であり、専制政体とは国家が自ら定めた法律を独断で執行する国家原理である。」

 

要するに、行政権と立法権が分離されていることが何より大事だと言っているのです。

なぜなら、行政権と立法権が同じなると、戦争が起きやすくなるからです。

第二次世界大戦に至る日本とドイツの例を見てみると、戦前の日本は天皇を中心とした立憲君主制を採用していましたが、実質的には国民主権国家と考えられます。

そして、ルールを決める立法権とそれを実行する行政権ははっきりと分かれていました。

しかし、1938年に国家総動員法が制定、戦争のために必要な労働力、機材など物的資源を政府が議会の承認なしに運用出来るようになりました。

行政(政府)と立法(議会)が一体化してしまったのです。

こうして巨大な権力が政府と軍部に与えられ、日本は太平洋戦争へと突き進むことになります。

 

また、ドイツにおいても第二次世界大戦前は行政権と立法権は分かれていました。

しかし、ヒトラーの出現により行政と立法の境い目があやふやになります。

そして、1933年3月に全権委任法が制定されました。

この法律によって行政権を持つ政府が国家の合意を得なくても立法権を行使することが出来るようになり、ヒトラーが全てを決められるようになりました。

ナチスの独裁体制が合法化され、戦争に突き進んでいったのです。

 

これについて、萱野さんは次のように解説されております。

「やっぱり人間て自分が思った通りに物事を運びたいじゃないですか。」

「でも、それを許していたらどんどん人間の邪悪さから戦争状態に近づいていってしまうかもしれない。」

「それを止めるにはどうしたらいいかっていうと、やりたいように人間が出来ないようにすればいいんですよね。」

「で、それをやりたいように人間がすることを防ぐには、ルールを作る人とルールのもとで行動する人を分けましょうということなんですね。」

「これがカントの言う立法権と行政権の分離ってことなんですよ。」

「結局、行政権というのは法に基づいていろんなことを執行するわけですけども、この人たちがルールを作るようになるとやりたいようにルールをその都度作るってかたちになりますよね。」

「そのルールを作る権限を持つ人たちとそのルールを基に執行する人たちを明確に分離しましょうと。」

「これが国家の暴走を防ぐ一番の方法ですよ、って(カントは)言ってるんですよね。」

「(ではその立法と行政の分離を維持していくためには何が出来るかという問いに対して、)「今の、例えば日本の制度でいくと議会で法律は決めるけども、その議会で決定する人たちを選ぶ権利は我々にあるんですよね。」

「ですので、これを形骸化させないこと、結局権力の監視を強めるとか、選挙でちゃんと行政権と立法権の分離を尊重してくれる人に投票するとか、そこの部分ですね。」

「国民が誤れば、結局は国も誤るってことですから、やはり国民主権である以上、我々の責任がむしろ問われるってことかなと思いますね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

以下に私なりの解釈を交えて内容を箇条書きで整理してみました。

・そもそも人間は邪悪であり、自然状態では戦争を起こし易い

・しかし、他の集団から自分たちの生活が侵害されることに直面すると、いくら邪悪な人間でもその邪悪さゆえに味方同士は団結せざるを得なくなる

・そのためには何らかのルールや法律が必要になって国家状態を作り出し、結果として平和状態が生み出される

・すなわち、悪魔たちであっても知性さえ備えていれば国家を樹立出来るのである

・人間の本性による裏付けがなければいくら理性や道徳できれいごとを言っても平和は実現しない

・国家も人間と同じように利己的である

・しかし、自然の摂理によってルールを作り、平和な国家を導くことが出来る

・その賢さは短期的な観点と長期的な観点とで判断が異なる場合がある

・正しい情報、経験、および知性や理性が短期的な利益を求めるよりも長期的に利益が最大化するように作用する

・しかし、正しい情報、経験、および知性や理性の不足により、現実には人間は短期的に物事を考え易い傾向がある

・従って、こうした能力、すなわち一言で言えば“人間力”を高めることが必要であり、そのためには学校教育などの環境整備が重要になってくる

・平和を実現するための国家原理として最も重要なのは行政権と立法権が分離されている(チェック&バランスが機能している)ことである

・行政権と立法権を行使する国会議員は国民による選挙で選ばれる

・従って、国民が誤れば国も誤る

・要するに、あらゆる意味で国民のレベルがその国のレベルを規定する

 

以上、番組の内容をまとめてみましたが、更に煎じ詰めていくと以下の4つに行き着くと思います。

・人間も国家も利己的な存在である

・この摂理を利用したルールの作成によってのみ平和を実現出来る

・平和を実現するための国家原理として最も重要なのは行政権と立法権の分離である

・国民のレベルがその国のレベルを規定する

 

こうしてみてくると、世界平和実現のための道筋がいくつか見えてきたので以下にお伝えします。

・経済の観点から、特に世界的に著名な経済学者はいかに戦争は経済的にみて長期的に損失が大きいかを明らかにし、声を大にして国際社会に訴えること

・軍事の観点から、特に世界的に著名な軍事学者はいかに戦争は長期的にみて大きな損失をもたらすかを明らかにし、声を大にして国際社会に訴えること

・政治の観点から、特に世界的に著名な政治学者はいかに行政権と立法権の分離が戦争など国家の暴走を防ぐかを明らかにし、声を大にして国際社会に訴えること

・国民は、利己的な存在であることを自覚しながらも知恵を働かせて長期的な観点から選挙などを通して国に働きかけること

 

なお、人類が平和で豊かな生活を追求していくうえで、今課題なのは世界平和の実現だけではありません。

それは、地球温暖化の阻止、および地球環境破壊の阻止、そして石油など限りあるエネルギーの枯渇問題の解決です。

カントが人間の悪が平和の条件であると訴えたように、人間の悪が地球温暖化の阻止、および地球環境破壊の阻止、あるいはエネルギーの枯渇問題の解決の条件でもあるといえそうです。

特に、石油などエネルギーの枯渇の到来はその奪い合いが戦争勃発の引き金になる可能性を秘めているのです。


 
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2016年11月11日
アイデアよもやま話 No.3545 光を取り込むブラインド!

ブラインドといえば、建物の外からの光を適度に調整して遮る使い方が一般的です。

そうした中、9月7日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で光を取り込むブラインドについて取り上げていたのでご紹介します。

 

外の光を取り込んで部屋全体を明るくするブラインドがシャープにより開発されました。

カギはブラインドの上の方に使っている特殊な羽根です。

この特殊な羽根には入射光を屈折するフィルムの加工がされており、天井の方向に出射光が広がるようになっているのです。

天井に光を反射させることで部屋全体に光を行きわたらせるということなのです。

その明るさは照度計で測ると13倍にもなっています。

なお、この採光フィルムは自社開発の液晶テレビの工学設計技術を応用して開発したといいます。

 

採光フィルム自体は去年開発したものですが、より使いやすくするためにブラインドに転用しました。

この採光ブラインドを使うと電気代を約4割削減出来るといいます。

そして、今年度末までの発売を目指すといいます。

シャープの研究開発事業本部の植木 俊さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「(天井の色による採光効果の違いについて、)天井が黒の場合はあまり効果がないと思います。」

「オフィスのようなところに導入することを想定していまして、オフィスであれば大体天井は白いので効果は得られるかなと思っております。」

 

この採光ブラインドはオフィスだけでなく、同じく天井の白い病院や学校で使うことを考えているといいます。

なお、晴れの日はいいのですが、曇りや雨の日は採光効果は下がるので従来の照明と併用することを勧めています。

価格はまだ未定ですが、一般のブラインドよりは高くなりそうですが、長い目で見ればコスト削減につながるとシャープでは見込んでいます。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

エネルギー対策については、大きく以下の3つが考えられます。

・エネルギーを作り出す創エネ

・エネルギーを蓄える蓄エネ

・エネルギーの使用を節約する省エネ

 

建物の省エネには既にいろいろな技術が普及していますが、今回ご紹介した光を取り込むブラインドは照明の新たな省エネ効果をもたらすものと大いに期待出来ます。

ですから、是非5年ほどで投資が回収出来るような価格設定で販売して欲しいと思います。


 
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2016年11月10日
アイデアよもやま話 No.3544 新たな”仮想現実”活用法!

これまで何度となく”仮想現実”(バーチャルリアリティ:VR)についてご紹介してきました。

そうした中、9月7日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で新たな”仮想現実”活用法について取り上げていたのでご紹介します。

 

今年はVRの世界に入り込んだ体験が出来るヘッドマウントディスプレーが相次いで発表されて、VR元年とも言われています。

ゲームなどエンターテインメントだけでなく、ビジネスやプロスポーツの世界でもこのVRを活用する動きが広がり始めています。

 

9月2日、東京都下水道局の葛西水再生センターの施設内にある建物の上、高さ20mほどの場所で作業していたのは明電舎の社員です。

危険を伴う高所で照明の取り付け作業をしていたのですが、ふと緊張が途切れてしまうこともあるといいます。

そんな社員の教育のために、明電舎が今年5月から使い始めたのがVRです。

VRを体験するためにゴーグル型のヘッドマウントディスプレーを付けた従業員は、高所作業に使う足場が置かれた床の上を歩くと、その足場は地上60mの高さにかけられています。

この高さを体験するという教育なのです。

足に取り付けられたセンサーが足の動きを感知し、実際に歩いた通りに映像の中の足場を進んで行きます。

ヘッドホンから聞こえるのは風の音、扇風機で実際の風を当て、臨場感を高めています。

そして、最後にここから飛び降りるのです。

実際に高所での作業経験が豊富な作業員が体験しても恐怖のあまり思わず声が出てしまいます。

また、このVRを体験した若い女性作業員は最後に飛び降りることが出来ませんでした。

実に4人に1人は飛び降りられませんが、それも教育の一環だといいます。

品質安全管理部の部長、土屋 浩さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「高所って怖いものだよっていうふうな危険を察知する意識付けが出来ればいいのか・・・」

 

明電舎はこれまで人形を落としてネットで受け止めてもらうことで恐怖を感じてもらう教育をしてきました。

それがVRを活用することでよりリアルな恐怖を感じてもらえるのです。

 

普段の仕事の中で安全管理はかなり現場で徹底されているので、ヒヤッとすることはいいことなのですが、減っているといいます。

しかし、怖いとかヒヤッとする感覚は危機管理のために大事だということで、それをあえて体験してもらうという考え方なのです。

 

一方、プロスポーツの世界でもVRの活用が始まっています。

プロ野球、東北楽天ゴールデンイーグルスの今江 敏晃選手は最近試合前にVRを使ったトレーニングに取り組んでいます。

楽天野球団が今シーズンから実験的に導入したバッティングのトレーニングシステムです。

楽天野球団とNTTデータが共同で開発しました。

今江選手は、この日対戦する日本ハムファイターズのメンドーサ投手の投球を確認します。

今江選手は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「対戦相手のピッチャーがマウンドにいて、自分がバッターボックスに立つシチュエーションて本当に試合でしか味わえないので、映像ですけどその感覚で立てるのはすごく大きいと思いますよね。」

 

チームのトレーニングを担当しており、このシステムの開発に携わった楽天野球団・チーム戦略室の室長、上田 顕さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「元々、我々は選手に対して(ビデオ)映像やデータを使ったトレーニングシステムはやってきたんですけど、より選手がリアルに何かバッターボックスに入る前に体感出来るですとか、探したところにVRを見つけまして。」

 

こうしたVRトレーニングが効を奏したのか、8月31日の日本ハムファイターズのメンドーサ投手に対して2打数1安打でした。

去年まで2年連続最下位の楽天、上田さんはVRがチーム飛躍の起爆剤になると考えています。

 

なお、VR関連の市場規模予測ですが、2025年には世界で8兆円規模にまで成長するといいます。(出所:ゴールドマン・サックス)

当然、ゲーム、映画、娯楽の分野は急成長しますが、今回ご紹介した体感教育、トレーニングの他にもリハビリなどの医療分野での活用も期待されています。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

番組でも伝えていたように、VRはゲームのみならず様々な分野での活用が見込まれます。

共通しているのは、単に映像を見るだけでなく、自分が映像の中に入り込んであたかも自分が実際に体験しているように感じてしまうところにあります。

実際に体験したいけれども怖かったり危険だったりで体験出来ないもの、あるいは行ってみたいけれども金銭的に、あるいは時間的に、更には宇宙旅行のように行けないところをVRの世界で訪れたり、あるいは臨場感溢れるゲームの世界を体験出来る、というところが一般の人たちにとってのVRのメリットだと思います。

一方、ビジネスをはじめ様々な分野でもVRを活用した研修やトレーニングなど思わぬかたちでVRが活用されると見込まれます。


 
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2016年11月09日
アイデアよもやま話 No.3543 波力で発電する船!

以前、アイデアよもやま話 No.2593 電池推進船の乗船体験! でバッテリーで進む船についてご紹介しました。

そうした中、9月6日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で波力で発電する船について取り上げていたのでご紹介します。

 

波が高ければ高いほど実力を発揮するエコなボートの研究開発が東京大学生産技術研究所 千葉実験所(千葉市稲毛区)の広大なプールで行われています。

波の力を使って発電し、動力や照明などの電力に使うというエコなボートなのです。

その仕組みは、フロートと呼ばれるボートの左右の2つの浮舟に付けられたサスペンションがモーターを回すことで発電するというものです。

また、このサスペンションは発電だけでなく、波の揺れを約7割も抑えることが出来るといいます。

燃料のおよそ3割を削減出来るというこの船ですが、現在海での実験を重ねていて、3〜4年後の実用化を目指しています。

実際に研究開発をされている北澤研究室の博士課程3年、韓 佳琳さんはこの技術について番組の中で次のようにおっしゃっています。

「これは新たな交通手段になる可能性も高いですね。」

「船酔いの人も海に出られるようになり、交通手段に船を選択出来るようになれると思います。」

 

今実験に使っているのは2、3人乗りですが、大型にすることも可能といいます。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

波力だけでは、太陽光発電や風力発電と同様に天候次第で発電量が不安定です。

ですから、当然波力だけで船を進めることは出来ません。

しかし、この技術を冒頭でご紹介したバッテリーで進む船と組み合わることにより航続距離を伸ばすことは可能です。

ですから、是非両者で協業することをお勧めしたいと思います。


 
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2016年11月08日
アイデアよもやま話 No.3542 外国人旅行客の不便の対応策をサービス業の生産性向上の起爆剤に!

9月5日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で外国人旅行客の不便を対象とするビジネスについて取り上げていたのでご紹介します。

 

このところ急増しているのが日本を訪れる外国人です。

こうした外国人が日本での滞在で感じる不便さを解消してビジネスチャンスに結びつけようと、至れり尽くせりのサービスが登場しています。

 

日本を訪れる外国人の数は増加の一途で、2001年には約500万人だったのが2015年には約2000万人にまで増えています。

特に、ここ2、3年は大幅な伸びを示しています。

更に、観光立国を掲げる政府は2020年までに訪日外国人の数を今の倍の4000万人にすることを目指しています。

しかし、日本に不便さを感じる外国人も多いのです。

あるカナダ人女性は、日本語が分からないので道の名前も分からないし、一人だと迷子になりそうでホテルを出るのも怖いといいます。

また、別のカナダ人男性は、日本語が分からないと電車の乗り換えが難しいといいます。

 

旅行中に困ったことにおける政府のアンケート調査(総務省・観光庁)は、以下の通りです。

  1. Wi−Fi環境        46.6%

  2. コミュニケーションが取れない 35.7%

  3. 観光案内が多言語表示ではない 20.2%

 

訪日外国人にとっても便利なコンビニですが、その一方で問題となっているのがお客と店員とのコミュニケーションです。

最近増えているのがチケットの購入や発券についての問い合わせです。

そこで、セブンイレブンが始めたのが“同時通訳”サービスです。

その仕組みは、まず言葉が分からない店員が横浜にあるセブンイレブンの多言語通訳センターに電話する、更に回線は通訳のいる札幌のコールセンターにもつながり、三者が同時に会話出来るようになっているのです。

通訳を介して事情を理解した店員はお客をマルチコピー機に案内して操作を手伝います。

こうした外国人客の複雑な要望にも言葉の壁を超えてきめ細かく応えるのです。

セブンイレブンでは9月から全国およそ1万9000ある全店舗でこの“同時通訳”サービスを開始しています。

 

この“同時通訳”サービス、現在は英語と中国語のみですが、反応次第で更に言語を増やすことも検討中だといいます。

 

一方、訪日外国人客の平均宿泊数が10泊を超える今、手荷物も大きくなりがちです。

大きなスーツケースを抱えて電車やバスで移動するのは一苦労です。

そこで、9月から実証実験として「手ぶら観光支援サービス」がスタートしました。

利用方法は簡単です。

海外で事前に申し込んだ時に発行された2次元バーコードを端末にかざすだけです。

荷物の送り先が記入された伝票が出てくる仕組みです。

この仕組みについて、ヤマトホールディングスの三重堀 敦也さんは、情報連携で2分くらいで出せるのでストレス解消にもなると言います。

 

この「手ぶら観光支援サービス」、観光客の情報はJTBで、英語、中国語、韓国語を翻訳し、送り状の発行はパナソニック、荷物の集荷・配送はヤマトホールディングスと、三社が連携して始めたプロジェクトです。

 

このサービスに対する訪日観光客の反応は上々のようです。

空港で預かった荷物は、お客がチェックインする前に宿泊先のホテルに届けられるのです。

ホテルにも端末があり、空港や次の宿泊先まで荷物を送ることも出来ます。

ホテルサンルートプラザ新宿の渡邊 聡支配人は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「今までですと、お金の収受をからめて一件について荷物の大きさを測って、(伝票を)書いて、1件につき短くても5分ぐらいかかった手続きが1分ぐらいで終わってしまいますから、非常に簡素化される上にミスもないということで非常に期待しております。」

 

企業が様々なシステムを活用した“おもてなし”で、訪日外国人の満足度を高めようとしているのです。

 

以上、番組の内容をご紹介してきましたが、番組を通して私が特に関心を持ったのは、旅行中に困ったことにおける政府のアンケート調査結果です。

言語が通じないことよりもインターネットが通じないWi−Fi環境の不備の方を訪日外国人は問題視しているということです。

ここから見えてくる環境立国を目指す上での課題対応策について、以下に私の思うところを箇条書きにまとめてみました。

・Wi−Fi環境の全国的な整備

・スマホを活用した多言語を対象とする自動通訳、あるいは自動翻訳のサービス強化

・訪日外国人向けのサービス用ロボットを国内の主要箇所(宿泊施設や駅、ショッピングセンターなど)に設置

・訪日外国人の日本滞在中の行動パターンを全て網羅した要件をまとめ、それに対応したサービスモデルを構築・全国展開

 

そして、最終的に目指すゴールは“世界一、あらゆる面で最高レベルの“おもてなし”の実現“と考えます。

 

さて、今セブンイレブンで展開しているような人海戦術による対応では効率が悪く、今後の訪日外国人の急増に対応しようとすると人件費増を避けられません。

ですから、どんどん進化しているAIやロボット、あるいはIoTなどのテクノロジーを駆使してスマートサービス(賢いサービス)を展開していくことが少子高齢化による人口減時代到来を迎えつつある日本の現状を打破するためにも求められるのです。

AIを駆使すれば、何ヵ国語でも瞬時に通訳したり翻訳したり出来るのです。

そうした時に参考になるのが、今回ご紹介した複数の企業の連携によるシームレスなサービスです。

もう一つは、アイデアよもやま話 No.3292 ロボットホテルの現状と課題!でもご紹介した極力人手を介さないホテルの運用サービスです。

そして、こうした包括的な取り組みを進めるうえでとても重要なのが先ほどまとめた課題対応策の最後に記したサービスモデルの構築なのです。

こうした取り組みが日本のサービス業の生産性の低さを世界最先端の生産性へと押し上げる起爆剤となるのです。

 

是非、日本政府にはこのような方針で東京オリンピック・パラリンピックの準備を進めていただきたいと思います。

最近、レガシー(遺産)という言葉をよく耳にしますが、是非競技場など目に見えるモノに限らずサービスなど目に見えないモノについても負のレガシーではなく、将来につながるプラスのレガシーの構築を目指して欲しいと思います。


 
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2016年11月07日
アイデアよもやま話 No.3541 ゲノム編集でトラフグが手軽に!?

ゲノム編集については、以前アイデアよもやま話 No.3188 命を変える新技術 ゲノム編集 その1 生物を自在に作り替える驚異的な技術!でもご紹介したことがあります。

そうした中、9月5日(月)放送のニュース(NHK総合テレビ)でゲノム編集でトラフグが手軽に食べられるようになる取り組みについて取り上げていたのでご紹介します。

 

トラフグを通常の2倍のスピードで成長させることに京都大学などのグループが成功しました。

これを可能にしたのは将来ノーベル賞を受賞する可能性もあると注目されている遺伝子を操作する技術、ゲノム編集です。

高松市にある研究施設で飼育されているのはゲノム編集の技術を使ったトラフグです。

通常のフグとの違いは肉付きのよさです。

身の部分が通常のフグの1.4倍ほどもあるといいます。

この肉付き、筋肉の成長を抑える遺伝子「ミオスタチン」を操作し、働かなくしたことで作り出されました。

ゲノム編集は、生命の設計図にあたる遺伝情報を自在に書き換えられる画期的な技術です。

ハサミの役割を持つ物質を使って遺伝子の一部を狙い通りに取り去り、新たに組み入れたりすることが出来ます。

4年前に低コストでより簡単な方法が開発され、世界中で遺伝情報を書き換える研究が進められています。

 

研究グループは肥満の人にも注目しました。

肥満の人のおよそ100人に1人が生まれつき食欲を抑える遺伝子に異常があるという研究があります。

研究グループはトラフグでこの食欲を抑える遺伝子をゲノム編集の技術で働かなくさせました。

すると、エサを食べる量が増え、通常の2倍のスピードで成長するようになったのです。

養殖フグを出荷出来る状態になるまでの期間が通常の半分にあたる1年ほどになったということです。

研究グループは、技術を確立したうえで安全性を確かめ、数年後には実用化に向けて量産体制を整えたいとしています。

京都大学の助教、木下 政人さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「筋肉量が増えて生産コストが安くなれば、お手軽に皆さんがご利用していただけるようになると思います。」

 

ゲノム編集のトラフグ、安全性はどのように確保されるのでしょうか。

従来の技術で作った遺伝子組み換え生物は、食品衛生法など法律で国の定める基準・審査を満たせば、出荷が認められています。

しかし、今回のトラフグは法律の規制対象になるかまだ決まっていないといいます。

ゲノム編集の研究は急速に進んでいて、農林水産省は関係省庁と今後対応を協議したいとしています。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

考えてみれば、私たちが普段食べている鶏肉や豚肉、牛肉などは少しでも成長を早く、そして肉付きを良く、あるいは美味しくするために飼料などあらゆる改良を重ねてきたと思います。

そうした中で、今や世界中で研究が進められているという、遺伝情報を自在に書き換えられる画期的な技術、ゲノム編集はこうした手段の中でも究極の手段と言えます。

確かにいろいろな食べ物がより美味しく、しかも低価格で手に入るようになれば私たちの食生活はそれだけ豊かになります。

しかし、生物の遺伝子を組み換えてまで私たちの食生活を豊かにしていいのかという私たち人類も含め生物に対する根源的な問いに私たちは直面しているのです。

でも、安全性が保障されさえすれば、将来的に人間は遺伝子操作で自分の望む理想的な人間に近づこうとする欲望を抑えられなくなると思います。

そのためにたとえ何億円かかろうとも特に世界中の富裕層は将来にわたる家族の繁栄を願って代々生まれてくる子どもたちに対して、自分たちの望む理想像により近づくように遺伝子操作を施す懸念があります。

その理想像としては現実にはノーベル賞級の科学者や芸術家、あるいは政治家などの遺伝子が参考にされるようになると思われます。

同様に、より病気になりにくいように様々な病気の原因となる遺伝子を取り除くような操作もされるようになると思われます。

一方、富裕層でなくても既に私たちは虫歯になれば入れ歯をしたり、骨折すれば人工骨を入れたりというように当たり前のようにこうした医療技術を受け入れています。

こうしたことから、安全性の保障、および治療費の低料金化とともに行き着くところまでゲノム編集に限らず再生医療などあらゆる医療技術を私たちはいずれ受け入れるようになっていくと思われます。

その行き着く先は秦の始皇帝が生涯夢見ていたけれども手に入れられなかった“永遠の命”を人類は手に入れる時を迎えるのです。

当然そうした時代には寿命=健康寿命の状態も実現していると思います。

その時、人類にとって“死”という概念は“本人が死を望み、それを実現した時の状態”というように変わっていると想像されます。


 
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2016年11月06日
No.3540 ちょっと一休み その567 『西洋のピアノの黒い色の源は日本の漆工芸品の光沢の魅力!』

アイデアよもやま話 No.3537 バイオプラスチックへの新たな取り組み!で、日本が世界に誇る“漆ブラック”についてご紹介しました。

そうした中、11月1日に東京国際フォーラムで開催中の「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2016」に出かけたところ、“漆ブラック”が展示されており、たまたま実物を間近に見る機会がありました。

確かに、素人目には漆塗りの実物との区別は分かりませんでした。

 

説明員によると、“漆ブラック”の今後の課題は防水機能やアルコールなどの薬剤による変色防止、傷のつきにくさ対応、あるいはコスト削減ということでした。

なお、“漆ブラック”はまだ開発段階ですが、既に国内外のおよそ50社から引き合いがあるといいます。

 

ちなみに、ネット検索で漆について調べたところ、漆は一旦固まると、酸、アルカリ、アルコール等の薬品類や、高熱にも耐える強靭な塗膜を作るため、漆器は非常に耐久性に優れていることが分かりました。

ですから、古来からの伝統的な漆工芸品は今開発段階の“漆ブラック”が抱える課題をコスト以外はすべてクリアしていたのです。

ただし、“漆ブラック”にも伝統的な漆にはない優れたところがあります。

それは、金型を変えることによって様々なかたちを作ることが出来るという加工のし易さです。

 

なお、漆工芸は中国から伝わった、など起源について諸説ありますが、福井県で出土した世界最古(約12600年前)の漆器を解析した結果、現在では日本起源が有力となっているようです。

 

さて、西洋のピアノの黒い色の源は、江戸時代に日本を訪れた西洋の宣教師が日本の漆の美しさに魅せられて漆で作られた工芸品を本国に持ち帰り、その魅力が工芸職人にも伝わったということも説明員からお聞きしました。

工芸職人は漆と同じ光沢を目指したのですが、同じ光沢を出すことは出来なかったのです。

このように、漆の美しさは日本の伝統に裏打ちされた日本独自の世界に誇れる優れた工芸技術なのです。

 

こうしたお話に接すると、改めて日本の伝統文化や伝統技術の素晴らしさに思いが至ります。

同時に、伝統的な漆の光沢を現代風に蘇らせようとする取り組みにも単なるビジネスとしての価値以外に伝統の継承の意気込みを感じ取れます。


 
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2016年11月05日
プロジェクト管理と日常生活 No.461 『カントの著作に見る戦争勃発のリスク対応策 その2 「世界国家」か「平和連合」か!』

多くの人々が平和を願っている一方で、常に世界中のどこかで紛争や戦争が絶えず起きています。

そこで、プロジェクト管理と日常生活 No.459 『国家間のより強い依存関係こそ戦争勃発の最適なリスク対応策』ではプロジェクト管理の考え方に沿って、国家間のより強い依存関係の構築こそが平和維持にとってとても重要であるとお伝えしました。

そうした中、8月1日(月)から4回にわたり放送された「100分de名著」(NHK Eテレ東京)で「カント “永遠平和のために”」をテーマに取り上げていたので戦争勃発のリスク対応策の観点から4回にわたってご紹介します。

2回目は、「世界国家」か「平和連合」かについてです。

なお、番組の講師は哲学者で津田塾大学教授の萱野 稔人さんでした。

 

第二次世界大戦が終わりを告げた71年前の1945年、二度と戦争が起こらないように国際連合(国連)が設立されました。

この国際連合、実は18世紀に活躍したヨーロッパを代表するドイツの哲学者、イマヌエル・カント(1724-1804)の著書、『永遠平和のために』(1795年刊行)がもとになっていると言われています。

カントは恒久平和を実現するためには国際的な平和連合を作らなければならないと主張しました。

しかし、国連が設立されたものの世界に平和は訪れていません。

 

前回、人間はそもそも邪悪で平和は作り出さなければいけないものであるというカントの主張をお伝えしました。

そして、平和を作り出すためにはルールとシステムが必要であるということでした。

今回のテーマは、国家間でどのように平和を確立していくのかという具体的な方法論です。

この時にカントが掲げるのは「平和連合」という考え方です。

この考え方は今の国連の基盤になっていると言われています。

 

平和のための条件としてカントが主張していることの一つは、国際的な平和連合を作ることです。

国家同士が連合することで永遠平和が訪れるはずであると考え、『永遠平和のために』の中で次のように記しています。

「国家としてまとまっている民族は複数の人々のうちの一人の個人のようなものと考えることができる。民族は自然状態においては、すなわち外的な法に従っていない状態では互いに隣り合って存在するだけでも他の民族に害を加えるのである。だからどの民族も自らの安全のために個人が国家において市民的な体制を構築したのと同じような体制を構築し、そこで自らの権利が守られるようにすることを他の民族に要求することが出来るし、要求すべきなのである。」

「これは国際的な連合であるべきであり、国際的に統一された世界的国家であってはならない。」

 

ここでは国家を一人の人間と同じように考えています。

そもそもカントは、人間は邪悪な存在であり、自然状態では争いがちな傾向を持つといいます。

そのため、人間と人間の間にはルールが必要となって、国家というシステムが出来上がりました。

この理論を国家同士の関係に当てはめると、国家と国家の間も自然状態では争いがちになるため、ルールとシステムが必要になるということなのです。

 

さて、永久平和への取り組みとしてカントは国際的な連合、すなわち各国家がそれぞれの政治主体となり、それぞれの国家が平等である「平和連語」を主張しています。

しかし、一方で世界全体を一つの統一国家とすることで個々の国家は生滅させるという「世界国家」の考え方もありますが、カントはこれには否定的です。

 

その理由についてですが、世界は一つの家だと理想を掲げる人も多いのですが、欧米の支配的な価値観に近い人がどんどん有利になっていくように見えます。

それぞれの国が自分たちの独自性とか自分たちのことは自分たちで決めるんだとか、そういったことが保存されるためには国家は残した方がいいというのがカントの一つの発想だといいます。

カントは、18世紀の終わりに植民地主義を沢山見ていました。

どんどんヨーロッパの国の都合でいろんな国を併合していきながら、国の言語や文化を本国のものに統合していく過程を見ていると、やはり世界国家よりはそれぞれの国の自主性を維持しながら平和を模索する道を考える方がより平和に近いと考えたのです。

 

更に、カントは、世界国家は総論賛成だが各論反対であり、実現出来ないと考えており、次のように記しています。

「一つの世界共和国という積極的な理念の代用として消極的な理念が必要となるのである。この消極的な理念がたえず拡大し続ける持続的な連合という理念なのであり、この連合が戦争を防ぎ、法を嫌う好戦的な傾向の流れを抑制するのである。」

 

カントはここで積極的な理念を「世界国家」、消極的な理念を国際的な「平和連合」とし、「平和連合」こそが世界を平和に導くと述べています。

カントは、積極的な理念は正しい目的を達成するためには何をしても許されるはずだという方向に向かいがちだと考えたのです。

せっかく戦争のない「世界国家」を作っても、誰かが抜け出したいと言った時、「理想的な「世界国家」から抜け出したいとは何事だ!武力を使ってでも阻止しなければならない!」と強硬な姿勢になり、逆に戦争になりかねないと考えたのです。

例えば、理想国家、第三帝国を目指したドイツのナチスによって大虐殺が起こりました。

しかし、消極的な理念である「平和連合」はみんなが折り合えるようなやり方で達成出来る目的を定めるという姿勢が基本となります。

更に、「平和連合」ではどんな小さな国でも主権国家と認められれば、一議席を持つことが出来、強者の論理に飲み込まれずに済みます。

「世界国家」を設立することで内戦を招くくらいなら、紛争の種を出来るだけ減らすために別な方法を探そうと考え出したのが消極的理念なのです。

 

世界が一つにまとまることが「世界国家」の存在意義ですから、一つでも独立したら「世界国家」ではなくなってしまいますから認めるわけにはいきません。

そうすると、独立したい人たちの独立運動を力で潰すしかないということになります。

戦争を無くすための「世界国家」がむしろ絶えざる戦争を招いてしまうことになってしまうとカントは考えたのです。

国家間で暴力が起きないようにすることが一番の目的であれば、それを最優先にし、戦争が起こらないように少しずつ積み重ねていきましょうというように現実的に考えたのです。

 

カントが示した国際的な「平和連合」は第一次世界大戦後に設立した国際連盟と第二次世界大戦後に設立した国際連合(国連)のベースになっていると言われています。

しかし、国連がある今も世界は永遠平和を達成出来ていません。

 

これはどうしてなのでしょうか。

まず、1920年に設立された国際連盟ですが、当時の加盟国は最大60ヵ国に達しましたが、設立を提唱したアメリカがそもそも加盟せず、その後、日本、ドイツ、イタリアが次々に脱退し、結局国際連盟から外れたこれらの国々によって戦争が起きました。

その時の反省を踏まえて第二次世界大戦後の1945年に設立された国際連合では様々な点が改善されました。

第一次世界大戦後の国際連盟では何かを決める際に加盟国全ての賛成を得ることが必要だったため物事がなかなか決まりませんでした。

そこで第二次世界大戦後の国際連合では、常任理事国を設定し、物事をスピーディに決めることが出来るようになりました。

ちなみに、現在の加盟国は193ヵ国です。

しかし、一方で常任理事国の意向に他国が従わなければならないことも発生します。

もう一つの改善点は、国連憲章で規定された国連軍の設置です。

国家間の武力紛争を防止したり、抑制するために国連は軍隊を派遣することが出来るようになります。

しかし、カントの理想は飽くまであらゆるトラブルを武力を使わずに法的に解決する仕組みを作ることでした。

理想的な「平和連合」に達するにはまだまだ道半ばかもしれないけれども、決してたどり着けない夢ではない、絶対に実現可能だとカントは信じていたのです。

 

さて、国際連盟、国際連合どちらにも共通するのが戦勝国によって設立されたということです。

出発点は敗戦国を懲罰するというか、抑え込むということが目的としてかなり濃厚でした。

ところが、カントは、『永遠平和のために』の中で明確に懲罰的な戦争や国際関係は決して平和をもたらさないと記していたのです。

その意図は、勝者と敗者という図式を明確に国際社会に持ち込んでしまって、一方が正しくて一方が間違っているという、国家間に上下関係をもたらしてしまうものなので本当の平和ではないということです。

では、具体的に今の国際連合についてどこを見直すべきかという問いに対して、番組の講師、萱野さんは、次のようにおっしゃっています。

「当事国としての関与をより強めていくことだと思うんですよね。」

「これはカントが言っていることでもあるんですけども、例えば国際司法裁判所(オランダのハーグに置かれた国際連合の司法機関)がありますが、これは紛争している当事国が了承した場合に決定は非常に有効になるんですよね。」

「でも強制力がないですから、一方が嫌だと言えば何の実効性も持たない。」

「ですので、国際連合に関しては国連軍や常任理事国というものをつくることによって一定の強制力を持たせられるようにしましょうという点での現実的な改善ではあるんですよ。」

「ただ、カントが言っているのはそこではないんですよね。」

「カントはむしろ、ならば当事国を関与させる工夫をもっとしましょうよというのがカントの解決策の方向性ですよね。」

「では、どうやったらこの国際司法裁判所を尊重してくれるような仕組みをつくれるのか、そのためには当事国に裁判所の運営にどんどん関与してもらうようにしなければいけない。」

「で、そこで合意点を少しずつ積み重ねていくということしかないですよね。」

「(こうしたやり方はとても時間がかかるが、それを打開していくには何が必要かという問いに対して、)各国が連合すること、関係を深めていくことがやはり我々にとって利益なんだっていうふうに思えるような枠組みをどう作っていくかじゃないですかね。」

「関与を深めていって、当事者になれば無責任なことは言えなくなるじゃないですか。」

「例えば今のドイツの立場であればEUを抜けるなんて言えませんよね。」

「(これまで)ずっと中心の役割でしたから。」

「最後まで中心でいなければいけないような立場、ああいうかたちで関与が深まれば中々止めることが出来なくなってくるということで、関与すればメリットがあるっていうような関与の枠組みをどう作っていくのかっていうことが課題になるかなと思いますよね。」

「(例えば、お隣の人を殴るとこの町に居られなくなるというディメリットがあるということを個々人がちゃんと理解することの重要性について、)全部ちゃんと認識するって人間出来ないじゃないですか。」

「哲学のテキストとして、(『永遠平和のために』は)ものすごいいい事例だと思うんですよね。」

「具体的な問題を考えていったら哲学の問題まで行きましたよっていう、そういう本なんですよ。」

「明確な目標があって、具体的な状況があって、その中である目的を達成するためにはどうしたらいいのかっていうことで考えていったら結局哲学の本でしたよっていくことですから。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

世界平和実現のための国際的な仕組みとして大きく「世界国家」と「平和連合」の二つが考えられます。

そうした中で、カントは世界平和実現のためには、あるいは現実的な言い回しとして戦争勃発リスクの対応策としてリスクをより小さく抑えるためには「平和連合」の方が有効であると訴えております。

この考え方は今回ご紹介してきた内容からしてとても現実的だと思います。

 

さて、カントが示した国際的な「平和連合」が国際連盟と国際連合(国連)設立の基本的な考え方のベースになっていることについてはこの番組で知りました。

そして、国際連盟の見直しを反映して新たに国連を設立しましたが、今も世界は永遠平和を達成出来ていません。

ことほどに永遠平和を実現することはとても難しいということが分かります。

そこで思い起こすべきは、人間は邪悪な存在であるというカントの掲げる大前提です。

人間と同じように国家も放っておけば、強国が弱小国に圧力をかけたり、侵略したり、あるいは紛争の勃発が絶えません。

だからこそ、いろいろとアイデアを巡らし、戦争や紛争により問題を解決するよりも平和裏に解決する方がメリットがあるというようなリスク対応策が求められるのであり、しかもこうした対応策の検討は状況の変化とともに見直しが求められます。

ですから対応策の見直しは永遠に続くのです。

一度きりの対応策で片付くような生易しいものではないのです。


 
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2016年11月04日
アイデアよもやま話 No.3539 世界初の歯周病治療!

これまで再生医療について何度かご紹介してきました。

そうした中、9月1日(木)放送の「日経プラス10」(BSジャパン)で世界初の再生医療による歯周病治療について取り上げていたのでご紹介します。

 

成人のおよそ8割がかかっているとされる歯周病は40代から発症するリスクが高まり、放っておくとひどい口臭の元となったり、歯を支えている骨が溶け、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。

ちなみに、歯周病には程度の軽い歯肉炎と重度の歯周炎の2つがあります。

現在の治療法では骨が溶け始めるとその進行を食い止めるのがやっとで、骨を元に戻すことは出来ません。

そんな歯周病にこれまでの常識を覆す世界初の治療法に挑んでいるのが大阪大学歯学部付属病院(大阪府吹田市)の医院長、村上 伸也さんです。

村上さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「(歯周病によって)今進んでいる破壊の時計を逆に動かして何年か前の状態に戻すことに挑戦しています。」

 

その治療法とは、患者自身から細胞を抽出して培養し、それを歯周病によって破壊された骨に移植し、再生させるというものです。

歯周病が進行しても、骨や歯茎の再生により自分の歯を失うことがなくなるかもしれない未来の治療法です。

 

さて、歯周病の進行プロセスはざっと以下の通りです。

歯そのものは歯茎と骨であごのところにしっかり直立していますが、口の中にあるバクテリア(ばい菌)が原因になって歯と歯茎の境い目に汚れを溜めてしまうとだんだん歯茎に炎症が起こって、歯と歯茎の間に隙間ができます。

これを歯周ポケットと呼んでいますが、これができてきて、そのまま放置しておくと次第に歯茎が駄目になって骨がだんだん痩せていって、遂に歯医者さんにかかることになったら歯を抜く治療をするということになります。

 

なお、歯周病を進行させる原因は以下の通りです。

・喫煙、糖尿病

・ストレス

・不規則な食習慣 など

 

ちなみに、糖尿病やストレスは身体の抵抗力が弱まる要因となります。

 

そこで、村上さんが取り組んでいる世界初の歯周病の治療法ですが、その具体的な方法はざっと以下の通りです。

  1. 歯周病の患者のお腹のおへその横辺りに少し切開を入れてお腹から脂肪(20〜30cc)を吸引する

  2. その脂肪の中から幹細胞を抽出・培養する

  3. その細胞を歯茎と骨が駄目になった箇所に移植し、失われた歯茎と骨を再生させる

 

ちなみに、治療手術は時間がそれほどかからず、局所麻酔なので患者さんと話しながら手術をすることが出来るといいます。

また、手術の方法は保険で行われているのと全く同じで、再生医療のために特別に開発されたものではないといいます。

今はまだ臨床研究の段階ですが、歯茎と骨の再生には手術後およそ9ヵ月のフォローアップが必要といいます。

なお、肝心の治療費については、まだ研究段階ということで未定ですが、目標は代替治療法として知られているインプラントの金額が大きな目標になるといいます。

ちなみに、インプラントとの大きな違いは自分の歯を使えるところにあります。

 

さて、歯周病の再生医療法として、従来から人工の保護膜を使用するGTR法、および豚の歯由来のタンパク質を使用するエムドゲイン法などいろいろありますが、こうした治療法よりも重度の患者さんに対して効果が発揮出来るようなものを目指したいと村上さんは考えておられます。

なお、実用化の目標は2,3年後といいます。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

自分自身の細胞を使った治療法が保険の適用内で歯周病に使われるようになればどれだけ多くの人たちが救われるか知れません。

ですから、是非ともこうしたかたちで国民病とも言える歯周病の治療法として少しでも早く今回ご紹介した治療法の実用化を目指していただきたいと思います。


 
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